政治・安全保障の観点からも中国から距離を置くアメリカ

ここ数年、厳しさを増す中国の検閲制度に加えて、政治・安全保障の観点からも、中国から距離を置くようになったアメリカ。中国は2021年のクーデターで国を掌握し、国際的に孤立するミャンマー国軍を支援した。そして、2022年に起きたウクライナ侵攻では、間接的にロシアを支持している。直近ではガザ地区でハマスが中国製武器・装備品を大量に使用していることが明らかになったと報じられている。

今日、ハリウッドの目には中国は以前ほど魅力的な市場とは映っていないのではないだろうか――。

どれほど中国人俳優を起用し、中国を舞台にしたとしても、ちょっとしたことで当局の怒りに触れ、市場から締め出される可能性が常にあるからだ。それよりも、表現の自由がある日本と手を組んだほうが得策だ。縮小しているとはいえ、大きな人口をもつ日本は興行収入において、北米、中国に続く映画市場第3位を保つ。だからこそ、Apple TV+、Netflix、Disney+などの代表的なストリーミングサービスで日本を題材としたコンテンツが台頭しているのである。

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日本のコンテンツをハリウッドが魅力的に感じている理由は他にも2つある。それは、日本の歴史にさかのぼる。

明治維新以降、西洋文化に浸透してきた日本文化

まず、日本文化が明治維新以降、西洋文化に長い間浸透し、影響を及ぼしてきたことである。19世紀後半、浮世絵や陶器にみる構図や色彩は西洋の画家たちを刺激し、日本ブーム「ジャポニズム」が生まれた。ジャポニズムはモネやセザンヌといった印象派や、ゴッホやゴーギャン、ミロなどの近代画家にインスピレーションを与え、多様な手法や芸術が生まれた。

先日、筆者がハンガリーの小さな地方都市・ペーチ市を訪れたとき、ジャポニズムに影響された、その土地の伝統的なジョルナイ陶器を見つけ、「こんなヨーロッパの地方にまで日本文化の影響が」とジャポニズムの広い浸透ぶりに舌を巻いた。当時の日本文化は西洋の芸術家や職人にとって、モチーフにせずにはいられないほど、ショッキングで魅力的なものだったのだろう。それはまさに、東洋と西洋の出会いだったのだ。つまり、日本は西洋が東洋を知る窓口となったとも言える。