「公費が足りない」「未納がある」状態が隠される

第2に、自腹を切ることで、「公費が足りている」「未納はない」という錯覚が生まれる。「公費が足りないから」「なかなか保護者が払わないから」といって、その穴を自腹で補填していくことにより、会計帳簿上、支障がない状況とみなされてしまう可能性がある。その結果、根本的な問題状況を覆い隠すこととなり、教育行政の条件整備や制度改善を進める契機を失いかねないこととなる。

福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)

第3に、自腹を切り続けることにより、経済的負担に対しての抵抗感が薄れていく。教育活動を効果的にしたり、校務を効率的に進めたりするための「必要経費」や「金で時間を買う」という発想で自分にとっては少額の自腹を繰り返していると、その自腹に意義を感じるようになり、抵抗感が薄れていく。

そして、それは自分が自腹を切るだけではなく、他の教職員にも「わたしも自分で払ってきたよ」と抵抗なく声をかけ、保護者が負担する費用についても「こちらがこれだけ支払っているのだから、自分の子の分くらいは払ってほしい」というように、経済的負担を他者に迫ることに抵抗感がなくなっていきかねない。

実態さえも明らかにされていない「教職員の自腹」

ここまでみてきたように、教職員の自腹行為は、教師の残業に構造がよく似ている。その人が好きでやっているのだからそれでいい、というようにみていると、いつの間にか自腹なしに公立学校の教育が成り立たない、という状況になってしまう危惧がある。

いや、すでにそうした状況になっているのではないか。

ましてや、教師の残業は国レベルでの調査が曲がりなりにも数回あり、現在、大いに問題現象として取り上げられてきているが、教職員の自腹のほうはそれに対する意識も醸成されていなければ、実態さえも明らかにされてきていないのである。

教職員の自腹はどれほどなのか、教職員の自腹は問題なのか、それはなぜなのか、教職員の自腹はどのように対応していくべきなのか――。今、議論を始めるときだ。

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