トヨタがTSMCに出資する意味合いは大きい

――熾烈な競争に勝ち抜いていく覚悟は重要ですね。何が鍵を握りますか?

半導体技術は継続的にアップグレードしていく必要があります。いまTSMCは2ナノから1ナノへ向けて技術開発に取り組んでいるところ。こうしたハイエンド技術を手掛けていくには年間20億ドルほど必要だとされているのです。

一般的に研究開発費は売り上げの5~8%とされるので、絶え間ない技術革新には少なくとも年間売り上げ400億ドル以上が必須となります。実はこの規模に到達している企業は世界でTSMC、インテル、そしてサムスンの3社のみです。常に1位を目指して他者にまねできない戦略が必要で、そのためには充分な顧客基盤があり、継続的に売り上げがあげられることも企業として大事です。

撮影=プレジデントオンライン編集部
林さんに取材する吉村さん

――しっかり儲けて力を蓄え、先々を見据えた研究開発をおろそかにしてはいけないと。

TSMCの幹部が熊本進出の理由を「そこにサポートすべき顧客がいるからだ」と語ったことで、「米アップルに画像センサーを供給しているソニーに協力するためだろう」という人もいます。それもあるでしょう。

熊本工場開所式には出資するトヨタ自動車の豊田章男会長も駆け付けました。自動車産業に使用される半導体の割合は今でこそまだ小さいかもしれませんが、いずれ電気自動車(EV)が自動車全体の3割を占めるはず。トヨタがTSMCと協力する余地も大きいでしょう。

こうしたことも念頭に、TSMC熊本工場は日本の製造分野を再び活性化させていくのです。張忠謀氏は2018年、経営トップからの引退時に「TSMCの繁栄は、今後20年は続く」と展望しています。

TSMCの9割は台湾人

――そんな自信満々のTSMCにもし課題があるとすればどのような点ですか?

もちろん台湾の企業なので国際化をはかっていくうえでの地政学的プレッシャーは常にありますし、また人材面の多元化でも課題はあります。例えばインテルという会社は、韓国人をはじめいろんな人種で成り立っていますが、TSMCは9割が台湾人なのです。そういった点も踏まえて日本進出はTSMCにとっても企業の発展と繁栄のうえでプラスになると踏んだのです。対日投資を決定し、拡大していく理由は、複合的で多岐にわたっています。