正常だった肝機能が悪化した例も

ただ効果がないだけで人体にまったく無害であるなら、医師の立場から使わないようにとわざわざ言うこともありません。私が問題視しているのは、これらのサプリメントのなかに、健康を損なうものもあるからなのです。

じっさい私の担当する患者さんにも有害事象が生じたことがありました。私がサプリメントについて積極的に注意喚起することにしたのは、その恐ろしい経験もあったからです。

その患者さんは、高血圧で定期的に外来に通院していた高齢女性でした。降圧剤は服用しているものの1種類のみで良好にコントロールされており、定期的な健診で採血検査をおこなっても、毎回なんら異常なく極めて安定していました。

ところが、あるとき定期的な血液検査をおこなったところ、これまで正常であった肝機能の数値が急激に悪化していたのです。本人はなんら自覚症状もなく、お元気。お酒も飲まない方でしたし、私が処方していた薬ももう10年以上も飲んでいたもので、ほかに臨時に処方したものはありませんでした。なにか別の医療機関でもらった薬はないかと訊きいても「ない」とのこと。つまりとくに肝機能を悪化させる要因が見当たらなかったのです。

2人して首を傾げつつ、しばし沈黙の時が流れました。すると、ふと「関係あるかどうかわかりませんが」と前置きして彼女は「膝痛に効くと友人に聞いたので、3ヶ月くらい前からサプリメントは飲んでます」と言うのです。

思わず私は膝を打ち、「それだ!」と声をあげてしまいました。そのサプリメントはテレビCMでも見たことのある「膝の痛みに効く」と謳われていたものです。本人もその効果に疑問を持ち始めていたこともあって、早速そのサプリメントの使用を中止するように指示、一定期間をおいて後日あらためて採血をおこなったところ、肝機能はすっかり元通りになっていたのでした。

よく見ると小さな字で「トクホではない」という記載が

このように使用することで有害事象が生じるものが市販されている現状を私は非常に問題視しています。テレビCMだけでなく、新聞の一面広告やインターネットのバナー広告などにも高齢者をターゲットとしたサプリメントが宣伝されていますが、これらの多くはその効果と安全性を国の行政機関によって担保されたものではありません。

消費者庁は「からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品」として特定保健用食品(トクホ)を定めています。「一生杖なしで歩ける!」「1日1粒で実感!」などと膝の痛みに絶大な効果を謳っているサプリメントは、トクホだと思っている方もいるでしょう。

しかし広告を隅々まで読むと違います。それこそ視力の低下した高齢者には読めない小さな字で「本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」「本品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません」と記されているのです。つまりこれらは、奇しくも販売者自ら認めているように、効果も安全性もなんら保証されていない商品ということです。