「認知症」は病名ではなく状態

そもそも認知症とは病気の名前ではありません。「状態」を指す言葉です。2023年(令和5年)6月に認知症基本法が成立しましたが、その条文では次のように定義されています。

「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう」

認知症の病型として代表的なものには、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあり、各々、臨床症状や検査所見、診断、治療が異なります。これらの詳細については成書に譲り、ここでは今後の議論にかかわる事がらについてのみ説明します。

認知症とは名のごとく認知機能にかんして問題が生じることです。「認知機能」とは、記憶だけでなく、言語や視空間機能、行為、注意、思考判断力など広範囲の機能が含まれます。これらの機能の一部もしくは全部が損なわれるものが認知症です。一部の認知症では記憶障害が目立たないものもあると言われています。「認知機能の低下」といっても、日常生活に支障をきたすほどの低下でなく、一時的なものであれば、とくに問題視する必要はありません。

現時点ではまだ特効薬は存在しませんが、なかには治療可能のものもあります。甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌疾患、頭部打撲ののちに生じる慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症といった頭蓋内の病変、電解質の異常やビタミン欠乏などと関連する認知症では、早めに発見して対処できればもと通りになるか、進行を遅らせたり症状を改善させられたりするものもあります。早期診断が重要です。

簡単にできる認知症の検査

診断をつける過程において、一般の診療所等で最も汎用されているのが長谷川式認知症スケールです。

所要時間は10分ほどで、検者に特別なスキルは要りませんし、特殊な機器も不要。外来でも居宅でも簡単におこなえるため、最初におこなわれる検査のひとつです。

30点満点のうち20点以下であると「認知症の疑いあり」となりますが、あくまでも参考であり、この結果をもって「認知症」と確定診断されるわけではありません。丁寧な問診と診察をおこなうことによって鑑別すべき疾患の有無を検索し、さらに脳CTやMRIといった画像検査をおこなうなど、確定診断を下すためには総合的な判断が必要となります。