韓国の制作会社が相次いで日本進出するワケ
尹はかつて小学館の漫画誌で連載していた作家で、10年に韓国で制作会社「YLAB(ワイラボ)」=昨年7月にコスダックに上場=を創業した。日本での創作経験を母国に持ち帰り、橫読み作品の輸出拠点としての役割を目指したのだ。当時、尹は高橋留美子や浦沢直樹などの著名作家にインタビューし、漫画作りの秘訣を聞き出している。だが、韓国のウェブトゥーン業界が急成長を遂げると、ワイラボは新市場に向けて舵を切る。そして瞬く間に、尹は日本に「学ぶ側」から「教える側」へと立場をひっくり返してみせた。
形勢が逆転したという文脈では、以前は日本の出版社が韓国で作家をスカウトしていたが、このところは韓国の制作会社の日本進出が相次いでいる。ソウル市に本社を置くジェダムメディアは昨年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループと組んで都内にスタジオを設立した。日本はクリエーターの人材が豊富な一方、長引いたデフレの影響で給与水準が低く韓国勢から見てコスパが良いのだ。ただ、ひらめきや柔軟な発想力を大切にする日本の描き手の中には、ロジックを重んじる韓流のモノ作りにギャップを感じる人もいる。少し前には、カカオピッコマ傘下の制作会社の社員が相次いで離脱する出来事が起きた。ピッコマ側は口を閉ざすが、事情に詳しい関係者は、韓国のやり方を日本人に押しつけすぎたのが原因だろうと推測する。
市場規模は1千億円程度に成長したが…
日系の制作スタジオでも事情は似たり寄ったりで、「数字にばかりこだわる彼ら(韓国系企業)とは話が全くかみ合わない」といった文句が聞こえる。韓流の漫画アプリは、大量の読者数が見込めるはやりのテーマの作品を好むため、日本の漫画雑誌に比べると型破りな作品は採用されづらい。
さりとて、韓国作品の二番煎じばかりをしていては、いつまでも本家を超えられない。日本流のヒット作品を生み出そうと意気込んでウェブトゥーン業界に入ってきた若者は、すっかりトーンダウンし、やり場のないいら立ちも募っている。国内のウェブトゥーン事業は22年が「元年」とされ、世間の認知度は急速に高まり、(広告や権利収入などを含めた広義の)市場規模は1千億円程度に成長した。だが、あるスタジオの社員は「今の業界を見渡すと、黎明期というより混乱期という表現の方がしっくりくる気がします」と力なくつぶやいた。