「ドラキュラ男がいる飲み会」で会った人だった
全員の自己紹介が終わった後、私から見て右斜め前に座る、ヤマモトさんという男性が「ほぅ、ひろこさんとおっしゃるんですか」と、こちらを見てにやにや。なんとこの人は、ドラキュラ男がいる飲み会で会った人ではないか(第5回参照)。あの会の後、彼からLINEをもらっていて返信していないことに今更気づいた。
「いやー、もうこういう会だとしょっちゅう知り合いに会うんですよねぇ」と、目の前にいる女性に話しかけている。私のことか。けれどヤマモトさんは全然いやそうな感じではない。流行りの映画や芸能ネタなど、普通に私にも話しかけてくれた。
タハラさんのほうも、運ばれてきた料理で「これ何かなぁ」と私がつぶやくと、「魚のフライですよ。大丈夫ですよ」と答えてくれた。私が「大丈夫って何が」とつっこむと、「たしかに」と初めてこちらを見て笑ってくれた。以前はロボットみたいな人だと思ってしまったが、本当は優しい人なのだと気づいた。
この日は、誰かが独善的に場を仕切るようなことがなく、けなしあいも沈黙もなく、始終穏やか。その空気をリードしていたのは、私の左隣に座っていたケイコさんだと思う。誰かが話すたび、細縁の丸いメガネの奥にのぞく目がなくなるほどにっこりし、リアクションをしてくれる。
年齢を重ねるほど、素直になるのが難しい
ケイコさんはこの2年間、インターネットで完結できる仕事をしながら全国を「旅」しているのだという。それも〝人生のパートナーを見つける〟旅だ。どんな仕事? 住まいはどうしてるの? どうして東京の婚活に? など参加者が次々に質問していた。私も知りたくて、彼女の話に耳をそばだてていた。
ドリンクのおかわりは自分で取りにいかなければならないため、ケイコさんが時々、席を立って1階に行くと、何となく場が暗くなる。そして彼女が戻ってくると再びパッと場が明るくなるのがわかる。照明みたいな人なのだ。
やがて2時間でパーティはお開きになり、皆とLINE交換。
参加した男性たちから「クリスマスに誘うのってめちゃくちゃハードル高いよなぁ」という会話が聞こえた。それは女性側も同じである。誘って断られ、傷つくのは怖い。年齢を重ねるほど、心をオープンにして素直になるのが難しいと思う。
パートナーを見つけるために全国を歩いているというケイコさんともっと話をしたくて、私は後日、彼女をランチに誘った。