持病を悪化させた高齢者が多かったのではないか

日本で死者が増えたのはなぜなのだろうか。考えられる理由は、主に三つある。一つは新型コロナ感染の見落とし、二つ目は医療逼迫で病院にアクセスできず、助けられるはずの命が救えなかったこと。そして、三つ目は、原発事故後の福島県で起こったような自粛に伴う高齢者の健康状態の悪化だ。

多くの病院で、入院時にはコロナのPCR検査が必須であり、途上国で超過死亡数が多かった原因として指摘されたような新型コロナ感染の見落としの可能性は低い。二つ目の医療逼迫による影響だが、厚生労働省が公開している公的病院などの患者受け入れ状況を見る限り、感染者がかつてない勢いで増えて医療逼迫が伝えられた第7波真っ只中の2022年8月でも、対人口比での病床数が少ない東京都内でさえ即応病床の空床を多数抱えていた。医療逼迫の影響がゼロだったとまでは言わないが、そのためにここまで超過死亡が増えたとは考えにくい。

すなわち、超過死亡が増えた最大の要因は、三つ目の自粛に伴う高齢者の健康状態の悪化ではないか。首都圏、関西圏では4回も発令された緊急事態宣言と長期の自粛により、持病を悪化させた高齢者が多かったわけだ。

小中学生の体力テストの結果は調査開始以来最低だった

『ランセット』誌に掲載された米国の研究報告で、日本の超過死亡が異常に多いことが分かった時点、あるいは、その前にも方向転換のチャンスはあった。例えば、2021年12月に、スポーツ庁は、全国の小学5年生と中学2年生を対象とした全国体力テストで、男女とも全8種目の合計点の平均値が調査開始以来最低であったと発表した。小中学生の体力がこれだけ落ちるのだから、新型コロナ自粛で家に閉じこもった高齢者の健康状態が悪化するのは誰でも想像がつくことだ。

さらに、2022年7月末には、厚生労働省が、2021年の「簡易生命表」で日本人の平均寿命が女性87.57歳、男性81.47歳で、新型コロナの影響か、前年より女性が0.14歳、男性が0.09歳短くなったことを発表した。前年を下回るのは、東日本大震災があった2011年以来だというから、この数値をもっと深刻にとらえ、マスクを外して積極的に動くように呼び掛ける方向へ、早い段階で政策を転換すべきだったのではないだろうか。

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