首相は「萩生田官房長官」を打診した

最大派閥の安倍派は、会長不在のまま、萩生田政調会長をはじめ、松野博一官房長官(61)、高木毅国会対策委員長(67)、西村康稔経済産業相(60)、世耕弘成参院幹事長(60)の幹部5人が留任した。この5人は、既述の昨年8月の岸田・森・青木会談で、森氏がポスト名を挙げて推薦し、首相がそっくり受け入れたメンバーだ。

今回の人事で首相が最も気を使ったのは、萩生田氏の処遇だった。報道によると、首相は9月11日、人事をめぐって党本部で幹部らと意見交換したが、萩生田氏とはこれに先立って首相公邸で会い、「官房長官か、政調会長留任のどちらがいいか」と打診する。萩生田氏は、政調会長が与党の全政策を仕切る「おいしい」ポストだと自認し、「茂木氏が留任なら、自分も留任したい」とのスタンスだったため、結局、留任に落ち着いた。

このプロセスからは、岸田首相が萩生田氏の安倍派での会長継承、政権取りに向け、経験すべき要職を提供しようと腐心しているのが見て取れる。

平成29年1月28日、日米首脳会談についての会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

安倍氏は後継会長に「指名」していた

首相にとって、萩生田氏は、6年前に当時の安倍首相から「将来の岸田政権の官房長官候補だ」と引き合わせられて以来、同志的関係にある。安倍氏からも、将来の自身の後継会長として萩生田氏の名を聞かされてきた。

森氏も、近い将来のリーダーとして萩生田氏を買っていて、岸田政権2期6年後の「萩生田政権」に向け、派内工作を進めているとされる。萩生田氏のバックには、ほかに麻生氏や菅義偉前首相もいる。萩生田氏の強みは、こうした首相や首相経験者らからの信頼と引き立てだ。今後、派内で広範な支持基盤をどう築いていくかが課題になるだろう。

政界は「一寸先は闇」とされ、何が起こるか分からないが、今回の人事をめぐる攻防から展望すると、岸田首相は総裁再選を果たせば、2027年の総裁選に向けて萩生田氏を後押しし、茂木氏はどこかでハシゴを外されることになるだろう。