岸田首相が政権発足2年を控えた9月、内閣改造・自民党役員人事に踏み切った。その目的は何か。政治ジャーナリストの小田尚さんは「来年9月の総裁再選戦略から逆算しての体制作りと同時に、その総裁選前に仕掛ける衆院解散・総選挙に向けての新布陣でもある。岸田首相は総裁再選を果たせば、2027年の総裁選に向けて萩生田政調会長を後押しし、茂木幹事長はどこかでハシゴを外されるだろう」という――。
記者会見を終え、撮影に応じる自民党新4役の(左から)萩生田光一政調会長、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長、小渕優子選対委員長=2023年9月13日午前、東京・永田町の同党本部
写真=時事通信フォト
記者会見を終え、撮影に応じる自民党新4役の(左から)萩生田光一政調会長、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長、小渕優子選対委員長=2023年9月13日午前、東京・永田町の同党本部

小渕氏の党4役登用は茂木氏への牽制

ある意味、サプライズ人事だった。岸田文雄首相(自民党総裁)が、9月13日の内閣改造・自民党役員人事で、茂木敏充幹事長(67)を留任させ、これとセットで同じ平成研究会(茂木派)の小渕優子組織運動本部長(49)を、党4役の一角である選挙対策委員長に登用したのだ。来年9月の次期総裁選で茂木氏の不出馬を「期待」するとともに、茂木派が茂木氏支持でまとまらないことを見透かし、小渕氏に地力をつけさせることで、茂木氏を牽制する狙いがあると言える。

今回の党役員人事は、茂木氏が政権の要である幹事長にとどまるかどうかが最大の焦点だった。茂木氏は党内第3派閥を率い、総裁選出馬への意欲を隠さなかったためだ。

幹事長は、選挙対策や国会対策を仕切り、政党交付金の配分を決める権限を持つことで政治力や求心力を身に付け、自らの勢力を広げることもできる「おいしい」ポストだ。

首相やその陣営にとって、次期衆院選を挟んで迎える1年後の次期総裁選を「無風」に近い形で再選されるには、どちらが得策か、思案のしどころだった。

「茂木を令和の明智光秀にさせない」

首相は当初、茂木氏の交代を図ろうとした。茂木氏が、政権運営をめぐって、岸田首相、麻生太郎副総裁との「三頭政治」と称して自身を誇示したり、今年に入って、児童手当の所得制限撤廃や臨時国会に向けた補正予算編成など重要政策の方針を、首相と擦り合わせもなく明らかにしたりするなど、その「前のめり」の言動が鼻についていたからだ。

だが、麻生氏から「茂木を『令和の明智光秀』にさせないから、幹事長を続けさせてやってくれ」と要請され、首相は態度を変える。麻生氏の言い分は、党には、幹事長は自ら支える総裁が出馬する総裁選には出馬しないとの不文律があり、茂木氏は幹事長なら、対抗馬にはなれない、させないということだった。

野党時代の2012年総裁選では、当時の谷垣禎一総裁の下にいた石原伸晃幹事長が出馬に名乗りを上げ、谷垣氏を出馬辞退に追い込んだ。その時、石原氏を「平成の明智光秀」と批判し、その勢いを失速させたのが麻生氏であり、石原陣営に加わっていたのが国会対策委員長の岸田氏、政調会長だった茂木氏という因縁もある。