公費負担大幅増は避けられない
実際、新薬は約600万人いる認知症患者の何割に投与されるかは不透明だが、大幅な支出増となるのは確実だ。またレカネマブの副作用として10%以上に脳出血や脳浮腫が報告されているので、定期的なMRI検査が必要になるだろうが、これも高額療養費制度に含まれてしまうので公費負担となる。
2023年度の社会保障費(医療+年金+福祉)総額は厚労省推計で約134兆円とされているが、レカネマブ単独でその額をさらに増加させかねないインパクトがあるのだ。日本の社会保障制度を破綻させかねないリスクのある薬剤だが、現在のところ世論を二分するような議論にはなっていない。
高いけど効くゾルゲンスマ
保険適応された高額薬品と言えば2020年に認可された、薬価が約1.7億円の「ゾルゲンスマ」が挙げられる。筋力の低下を引き起こす脊髄性筋萎縮症(SMA)を罹患したか2歳未満の乳幼児に投与する遺伝子治療薬である。最重症とされるSMA I型は、乳児期に発症して寝たきりのまま短い生涯を終えるケースが多かったが、1回のゾルゲンスマ投与で歩けるようになった動画を見るにつけ「超高いけど効果ある」との評価をする人も多い。対象患者は日本国内では年間25人程度という少なさもあって公費負担増も50億程度と推計され、医療関係者の反発も見当たらない。
世代間格差をさらに拡大するレカネマブ
一方、レカネマブは「進行を遅らせる」薬であり、認知症そのものが治るわけではない。進行を遅らせて要介護期間が延長した場合、介護費用の増大も懸念される。少子高齢化で介護人材不足も慢性化しているし、最近の円安では海外からの介護人材導入も困難だ。
「レカネマブの使用は、65歳未満の若年性アルツハイマー病に限定すべき」という医療関係者の声も大きい。しかし、現在の保険制度では「年収800万円の50代サラリーマンにレカネマブ投与」となった場合には自己負担3割となり、「病気の進行を遅らせるメリットが大きい」世代ほど自己負担分も大きいという矛盾がある。
2022年度から体外受精など高額不妊治療が保険適応されたが、これには「43歳未満」という明確な年齢制限が設けられた。一方、翌9月26日の武見敬三厚労大臣の記者会見では、「レカネマブの保険医療財政への影響」について質問されたものの、年齢制限や経済的インパクトについては言及されなかった。