なぜ「格差をもっと拡大しよう」と述べたのか
そして、この4月から新浪さんが経済同友会の代表幹事に就任しています。新浪さんは、櫻田さんの考えを受け継ぎ、成長と共助が両立する「共助資本主義」という概念を掲げられています。今の社会に必要とされる資本主義は、これまでの「勝つか負けるか」という種類のものではなく、多様なセクターが連携して共に助け合う形のものなのだ、というものです。
その前提にあるのは「資本主義の行き詰まりによって経済格差が広がっている」「それを是正しなければならない」という認識です。
これに対し、成田さんは「格差をもっと拡大しよう」と述べたことがあります(テレビ朝日「選挙ステーション2021」2021年10月31日放送)。経済指標をつぶさにみると、日本における格差の拡大は他の先進諸国より緩やか、またはほとんど起きていません。むしろ日本人が直面しているのは、格差ではなく、「貧困と成長の不在」という問題である。その解決のためには、「経済格差の是正」は有効ではない、というのです。
厚生労働白書によると、格差の指標である「ジニ係数」(再分配後)は、日本では1999年に0.3814、2021年に0.3813と、今世紀に入ってからほぼ横ばいです。トップ1%の富裕層が国民全体の所得に占める割合もほとんど変化していません(世界不平等データベースによる)。アメリカなどではどちらの格差指標も目に見えて上がっているのと対照的です。
「一億総貧困社会みたいなものが起きている」
格差ではないとすれば、日本では何が起きているのか。総務省の家計調査データをみると、高所得者世帯、低所得者世帯ともに所得が下がっています。つまり昔に比べて、全体的にまずしくなっているのです。
成田さんは「貧困問題の原因は、富裕層が富をむしり取っているからではない」といいます。そうだとすれば、格差は広がっていくはずですが、さきほどみたように格差は拡大していない。貧困にあえぐ人が増えているのは、日本が貧しくなっているから。日本経済そのものが縮んでいるから、格差は広がらず、貧困問題が深刻になっている。
つまり、日本で起きているのは、貧困問題であって、格差の問題ではない。成田さんは「一億総貧困社会みたいなものが起きている」として、「もっと格差を作り出したたほうがいい」と提案されています。どういう意味でしょうか?
「日本は30年間、新しい産業を作り出せていない」
格差は、新しい産業が勃興し、新しい富が作り出されたとき、その富の分配が歪んだときに生まれます。
たとえば、IT産業は過去30年の間に急拡大しました。GAFAMのように、アメリカでは起業家や投資家など一部に富が集中し、格差は拡大しています。
一方、日本は幸か不幸か、この30年間、新しい産業を作り出すということがほとんどできていません。新しい富が作り出されていないので、そもそも分配を間違いようもない。
こうした前提から、成田さんは「日本が直面しているのは格差ではなく、『貧困と成長の不在』。だとすれば、格差が広がるくらいまで、まずは日本の産業が力を取り戻すというのが先ではないか」と主張されています。
日本経済再興のために、どんな手を打つべきなのか。9月26日、東京国際フォーラムで新浪さんと成田さんの公開対談を行います。ぜひご注目ください。