歯周病菌を放置してはいけない

また、糖尿病患者は、口の中が乾燥しやすく、唾液に栄養となる糖が増えるため、歯周病菌が増殖しやすくなります。こうして、糖尿病と歯周病は悪循環のサイクルとなっていくのです。

糖尿病患者は非糖尿病者と比較して、歯周病発症率が2.6倍高いという報告があります(※5)。それとは逆に歯周病の治療をすると血糖値が落ち着くといった報告(※6)もあり、両者は深い関係にあります。しかし、これまでの研究では歯周病菌がどのようにして糖の吸収や分解に異常を引き起こすのかは十分理解されていませんでした。

※5 Nelson RG, et al:Periodontal disease and NIDDM in Pima Indians. Diabetes Care.1990; 13: 836-840.
※6 Engebretson S, Kocher T. Evidence that periodontal treatment improves diabetes outcomes:a systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2013; 40 Suppl 14: S153-163.

最近の研究で、歯周病菌は筋肉の脂肪化を引き起こすことがわかりました(※7)。筋肉内に蓄積する脂肪は筋内脂肪と呼ばれ筋内脂肪は、糖尿病の原因となるインスリンの機能低下を引き起こすのに加え、加齢・運動不足により増加します。

※7 Watanabe K, et al. Porphyromonas gingivalis impairs glucose uptake in skeletal muscle associated with altering gut microbiota. FASEB J. 2021; 35(2): e21171.

研究者たちは、筋肉の脂肪化と歯周病の関係を調べるにあたり、歯周病患者の骨格筋が脂肪化したときに放出される物質と歯周病菌の数を測定しました。結果は、歯周病菌の数が多い人ほど、骨格筋の脂肪化が進んでいることが明らかになりました。歯周病菌は筋肉を霜降り状態にする恐ろしい力を持っていることになります。

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臓器を傷つけ、がんや認知症の原因になる

またマウスを用いた実験では、歯周病菌を投与されたマウスで炎症関連の遺伝子数が上昇していることも明らかになりました(※8)。慢性的な炎症は臓器の機能低下やがんを引き起こします。

※8 Meyer C, et al. Role of human liver, kidney, and skeletal muscle in postprandial glucose homeostasis. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2002; 282: E419-E427.

中尾篤典・毛内拡『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)

例えば肝臓の炎症は肝硬変を経て肝がんになることが知られていますし、脳における慢性的な炎症は認知症の原因にもなります。歯周病菌は筋肉を奪うだけでなく、感染によって肉体に傷もつけているようです。

歯周病菌の悪影響はまだあります。筋肉は、食事で摂取した糖分の多くを吸収しグリコーゲンとして蓄え、飢餓などに備えてエネルギーを蓄える貯蔵庫としての役目があります。ところが歯周病菌に感染したマウスは、筋肉に吸収される糖の量が減り、同時に血糖を下げるインスリンの効き目が大きく落ちていることが確認されました。

つまり、筋肉による糖吸収を抑え、結果的に血糖値が上がるという悪影響を及ぼしているのです。さらに腸内細菌を調べると、歯周病菌は腸内細菌叢の腸内細菌の多様性を損なっていることも示されました。