大混乱の発端は河野デジタル相の強行策

マイナンバーをめぐる大混乱は、河野デジタル相が22年10月に突如、24年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化する「マイナ保険証」の強行策を打ち出したことに始まる。

「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」とうたい、国民には2万円分のマイナポイントを提供する「アメ」を配り、自治体にはマイナカードの交付率を地方交付税の算定に反映させる強権の「ムチ」でたたいた結果、マイナンバーカードの交付数は国民の7割にまで拡大。6月2日にはマイナンバーカードの活用拡大に向けた改正マイナンバー法が成立した。

だが、その前後から、マイナンバーを巡るトラブルが続発、収拾がつかない惨状を呈する事態になった。その大半は、「カード普及ありき」で前のめりになった河野デジタル相の現場の事情を顧みない拙速なゴリ押しが主因だった。

ところが、旗振り役の河野デジタル相は、不祥事の責任を、自治体や保険者、システム開発企業などに押しつけ、まるで他人事のように上から目線の発言を連発、「マイナ保険証」の自主返納が急増しても「微々たる数だ。問題はない」と言い放った。

国会で個人情報保護の重要性を質されても、正面から答えようとせず、はぐらかすばかり。記者会見で自らの責任を問われると「マイナンバーカードが普及したおかげで、ミスが判明した」と開き直ったのである。

個人情報の漏洩に対する国民の不安に応えようとする姿勢は、まったく見えなかった。

8月15日になって「けじめをつける」として自身の給与3カ月分の自主返納と続投を発表したが、自身の責任をその程度の軽さと受け止めているのか、とため息が上がった。

持ち前の「突破力」で猛進したものの、守勢に回ったとたんに自己保身に走る姿は、醜悪極まりない。これが「ポスト岸田」に名が上がる有力候補の姿とあっては、泣けてくる。

「マイナンバーを巡るトラブルはなくならない」

岸田首相は、11月末までにマイナンバーに関わる個別データの総点検を進めるよう指示しているが、予定通りに進むかどうかは不透明で、新たな問題が発覚したり、不祥事が膨らむ可能性もある。

読売新聞の世論調査によると、「政府の総点検でトラブルが解決すると思わない人」は78%にも達している。

全国保険医団体連合会(保団連)は7月、24年秋に現行の保険証が廃止された後に「マイナ保険証」を利用した場合に発生するトラブル件数について、全国約18万施設ある医療機関で、登録データの更新遅れなどから「無効・該当資格なし」と表示されるケースが約72万件、カードリーダーなどの不具合で読み取りができない事態が約53万件発生するとの推計を公表。住江憲勇会長は「マイナ保険証の運用を続ける限り、トラブルはなくならない。いったん運用を停止すべきだ」と訴えた。

また、テレビ朝日の8月15日の報道によると、保険情報とマイナンバーがひもづけされずに利用できない「マイナ保険証」が少なくとも約40万人分あることがわかったという。

時事通信の世論調査では、マイナンバーカードの不祥事をめぐる岸田首相の指導力について「発揮していない」が69%に達し、「発揮している」はわずか8%。河野デジタル相の対応についても「評価しない」が53%に達し、「評価する」は18%にとどまった。

「現場の意見を聞きながら、丁寧に説明する」という岸田首相の意向は、国民にも、自治体にも、医療現場にも、まったく受け入れられていないといえる。