気づかれず支援につながらない

しかし、知的障害の基準が変わったとはいえ、IQ70~84のかつて「境界線精神遅滞」と定義されていた人たちは、障害が治ったわけではなく依然存在します。それなのに、支援の対象外とされたというのが、問題なのです。

彼ら・彼女らは子どもの頃から、「勉強が苦手」「コミュニケーションが苦手」「運動が苦手」といった学習面や身体面に問題を抱え、生きづらさを抱えているケースが少なくないのです。にもかかわらず、境界知能であることに気づかれず、さらには支援につながることが少ないため、勉強でつまずいたり、仕事が続かなかったり、引きこもったり、だまされたり、最悪な場合には、利用され犯罪に手を染めて刑務所に入ってしまうことすらあるのです。

では、軽度知的障害であれば気づかれるのかといえば、そうとも言い切れません。見た目や普段の生活態度ではほとんど区別がつかないケースもあります(知的障害を疑いながら注意深く見れば、学習上や行動上のつまずきがわかってきますが)。

また、ひと口に「軽度知的障害」とはいっても、中等度に近いIQ50と境界知能に近いIQ69では困りごとのレベルはかなり異なりますので、ここも注意が必要です。

中学1年生の今、テストが20点のTくん

Tくんは、小学2年生くらいまでなんとか勉強についていけましたが、中学1年生の今、もう授業は難しくてついていくのが困難です。テストの点数は、5教科合わせて500点満点のところ100点くらい。1教科平均20点です。先生の板書は7割くらい書き取れますが、自分で問題を解くことは難しいです。

家庭では、勉強せずにスマホでゲームをしたり動画を見て過ごしたりすることが多く、課金が月額1万円を超えることもあります。また、「宿題はやった?」と聞くとやっていないのに「やったよ」などと、よく嘘をつきます。

親御さんは、Tくんの進路が心配です。親御さんの願いは「過去に戻りたい」「頭をよくしてほしい」「未来を見てみたい」という痛切なものです。

このTくんの知能水準は、だいたいどれくらいだと推定されるでしょうか。Tくんは現在、通常学級で過ごしています。小学2年生くらいまでなんとか勉強についていけたそうですが、裏を返せば、それ以降今まで相当にしんどい思いをしていることが推察されます。

また、よく嘘をつくということですが、2つの原因が考えられます。ひとつは「聞く力」の弱さです。聞き取れずになんと答えていいかわからないときに、とりあえず「うん」と答えてしまっているようなケースです。

もうひとつは、心理的側面からは、嘘をつくことで得をする場合です。得というのは、例えば、叱られずにすむ、注目されるなどが考えられます。Tくんの場合は、おそらく前者のケースと考えられました。