「自分の子どもを殺しても罪にならんと?」

私は、彼の心の奥深く閉ざされた傷のことが気になっていました。彼の前で、幼いころの話に意図的に触れていました。

するとあるとき、車の中でショウ君が急に私に、「親やったら自分の子どもを殺しても罪にならんと?」と訊いてきたのです。

私が驚いて「え? なんで?」と言うと、「俺の兄ちゃんは祖父ちゃんに殴り殺されたのに、祖父ちゃんは捕まらんかったもん」と話し始めたのです。

写真=iStock.com/Jamie
「兄ちゃんは祖父ちゃんに殴り殺された」(※写真はイメージです)

兄の死は事前情報でも聞いていた話だったので、引き込まれました。ショウ君はその時は3歳か4歳くらいで、記憶があるのかないのか、その事実を知っているのかすら、現在の関係者の中に知っている者はいませんでした。事実はベールの中です。

「お兄ちゃんの死について何か知ってるの?」と尋ねると、「はっきり覚えているよ。だって隣にいたから」と言うではありませんか。

お祖父ちゃんが側頭部をグーで思い切り殴った

今だったら事実確認面接など行われていたかもしれませんが、当時はまだ幼いからと、児童相談所や警察からの聴き取りはされていなかったそうです。

お兄ちゃんの食事の時の行儀が悪くて、お祖父ちゃんが側頭部をグーで思い切り殴った。その殴られた勢いでお兄ちゃんが椅子から落ちて、倒れて、そのまま顔がワーッと青ざめていって、動かなくなった。

その後救急車を呼んで運ばれたけど、そのまま亡くなってしまった。

お葬式をして火葬場にも行ったはずだけど、それ以降のお兄ちゃんに関することは記憶がないといいます。

これは、面前DVの中でも最悪のケースです。

死ぬのを目撃してしまったこの子の心の傷は、計り知れません。

あまりにも強い恐怖体験に、解離が起こってしまっているのかもしれません。そしてそれが何か「触れてはいけないこと」だと、幼いながら分かり、ずっと口を閉ざしていたのです。