「世帯年収800万円」なのにまったく余裕がない

世帯年収800万円というと、ボーナスを考慮しないと手取りは50万~55万円ほどです。村高さん一家の支出は、13年前に買ったマンションのローンと修繕積立金などを合わせて住居にかかる費用が毎月15万円。そして優愛さんの私立高校の教育費や修学旅行の積立金などが月々10万円かかっていましたが、ファッションや遊びにかけるお金が月5万円にもなっていました。すると、年収800万円世帯でもまったく余裕がありません。本来であればもっと貯金できてもいい収入にもかかわらず、娘の「見栄」を保つためだけに、家計はピンチに陥っていました。

貴子さんからも話を聞いてみたのですが、彼女自身、実家があまり裕福ではなく、若い時の服はいつもおさがりで、流行りのゲームなどに自分だけついていけないことで疎外感を感じていたのだそうです。そんな「娘にだけは同じ思いをさせたくない」という強い思いと、自分自身も周りの親との格差を気にし、保護者会で着る服を毎回新調したり、ホテルでの高級ランチ会にも顔を出すなどして、「見栄」を保っていたようでした。

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「見栄っ張り」が貧乏を呼ぶ

インスタ映えを狙って借金地獄に陥ってしまった20代女性や、妻を亡くしたショックを悟られまいと豪遊に走った初老男性――私のお客様でもこんな「見栄っ張り貧乏」さんが老若男女問わず、非常に多いです。彼らに共通するのは、行動の動機が「他律的」になっていること。「“いいね!”がほしくて」「付き合いが悪いと思われたくない」「お揃いでないとメンバーになれない」といった相談者から聞く声には、日本ならではの同調圧力や、素のままでは生きづらい状況も見えるような気がします。だから「ありのままに生きろ」みたいな曲や本が売れるのかもしれませんね……。

と、話が少しそれてしまいましたが、このような「見栄っ張り」さんには、キャッシュフロー表をお見せするようにしています。だいたいが「今が良ければいい」という消費の仕方をしてしまっているので、今のお金の使い方を続けた場合将来どうなるのか、長期にわたるお金の流れを数字で見ていただくのです。村高さん一家のケースでは、このままの生活を続けると1年後には貯蓄が100万円を切ってしまうという結果が出ていました。そこではじめてハッとした貴子さんから、「どうすればいいでしょうか」という言葉が出てきました。

私からご提案したのは、まず貴子さんが働きに出て世帯収入を上げることです。一度ついてしまった消費の癖をなおすのは難しいので、まずは、収入を上げることで貯金ができるようにする。それと同時に、やはり今のような散財は改める必要があるので、娘さんに使える金額のラインを示してもらうようにしました。そうして徐々に支出をスリム化し、貴子さんの収入も安定すれば、老後の貯蓄もできるようになるはずです。