断っても渡されるおみやげの謎

取引先で行われる不正行為に自分が利用されていた――この実例を見てみましょう。

私も相談者の方と同じように、顧客企業の担当者から「おみやげ」を渡されることがありました。おみやげとして渡されるそれは、いわゆるギフト品として販売されている品ではなく、その企業の事務所近くの漁港で水揚げされた鮮魚が何匹も入った発砲スチロールの箱でした。

はじめてそれをもらったときには驚いて、特別な贈り物として渡されたのだろうと思っていました。しかし、しばらくするとまた同じものが用意されていて、次第にその頻度は増し、ついに毎月訪問のたびに渡されるようになったのです。

正直に言って、私はそれをもらうたびに、まるで嬉しくないどころか、迷惑に感じていました。私は当時一人暮らしで、鮮魚をもらっても扱いに困りましたし、何時間も電車を乗り継いでその会社を訪問していましたので、ただでさえ手持ちの荷物が多いのに、自宅に持ち帰るのは大変だったのです。

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おみやげが担当者の懐に…

先方の年配の担当者に何度も遠慮したい旨を伝えましたが、「まあ、そうおっしゃらずにどうぞ、どうぞ」と言われるのです。

「いえ、本当にありがたいのですが、今日持ち帰りましても、明日からまた出張に出かけますし……」と説明しても聞いてもらえません。

担当者の周囲の人たちも見かねて、「これは持ち帰るだけでもたいへんですよ」と助け船を出してくれるのですが、

「いや、別に電車内に置いていくだけでしょう」となり、取り付く島もありません。

そのため一度、年配の担当者の助手役で、いつもその鮮魚を市場へ買いに行っている若い社員に、「なぜAさん(年配の担当者氏)は私に魚を持たせたいのですか」と尋ねると、その社員は、鮮魚をたっぷり詰め込んだ発砲スチロールの箱を二つ積んだ車のトランクを私に見せて、「Aさんが一つ持って帰るからですよ。両方ともおみやげとして松崎さんに渡したことになっているんですよ」と言うのです。

そして、「Aさんは魚が大好きですから楽しみにしているんですよ。でも、これ持って帰るの大変でしょう。もし本当にいらなければ、私がもらって帰りたいくらいですよ」と続けました。

私は当時、お酒を飲みませんでしたので、私に用意されたのは鮮魚だったのですが、やはりAさんが担当者だった他の同業者は、私が手渡されていたのと、まったく同じように、毎回日本酒をもらって帰っていたようです。これは後になって知ったことです。