アルコール依存症で入院する患者の4割は抑うつ状態

実は、アルコールとうつ病には深い関係があります。アルコール依存症の病歴があるとうつ病にかかるリスクが4倍高くなり、うつ病の病歴がある人の4割はアルコール依存症を合併するという研究報告があります。

私がセンター長をつとめている病院では、アルコール依存症で入院する患者10人のうちの4人、つまり4割に抑うつ状態が見られます。3カ月の入院治療をしてお酒をやめれば、そのうちの3人ほどは回復し、抗うつ剤もいらなくなります。

「うつが先か? アルコールが先か?」はすぐには判断しづらいですが、禁酒をして経過を観察し、うつ病の回復が見られれば飲酒が先行した「アルコール性のうつ」だとわかります。依存症の患者さんは、概してそのケースが目立ちます。

逆に「うつ病」を発症してからアルコール依存症が進行する場合は、「自己治療」の精神薬としてアルコールを使っているうちにハマってしまいます。

抗うつ剤とアルコールを同時に摂取してはいけない理由

前述した通り、飲酒をするとドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の活性が上がって気分が晴れ、意欲的になれますが、「ハイになる」のは飲んでいるときだけ。酔いがさめれば気持ちはガクッと落ち込み、さらに重いうつの状態になります。

垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)

うつ病の人が禁酒すると内面的に絶望感が増し、足りないぶんを補おうとしてまた飲むので、負のスパイラルに陥ってしまいがちです。多量に飲むほど飲酒時と酔いがさめたときの落差が大きいので、うつ病の人にとってお酒はとても危険です。

そのため、うつ病の治療で精神科にかかっている人は、アルコールを飲まないように指導されるはずです。また、精神科で出される抗うつ剤の処方箋には、アルコールと一緒に飲まないよう明記されています。

反対の作用をするアルコールと抗うつ剤を同時に服用しても、費用と時間が無駄になるだけ。薬物の代謝やアルコールの解毒にかかわる肝臓を痛めてしまうことにもなります。

ところが、アルコールと抗うつ剤をダブルで使用している人、またアルコールを飲んでいることを隠して精神科に通う患者は多くいて、結果的にうつと依存症の両方を進行させてしまいます。

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