優秀な同性が振りかざす成功則がしんどい

こうした男社会からの勝手な正論では、女性は納得しないことは多くの皆さんがお分かりかと思います。続いては、同姓ながら「善意の加害者」になってしまう女性識者の提言を見ていきましょう。

彼女らの提言には、一つの傾向があります。それは、「時代環境の中で、最善の生き方をしたいのであれば、こうすべき」という教条的かつ現実的な論調です。むやみに理想論を追いかけ、現実社会と敵対していては、ますます女性はつらい立場に追いやられてしまうのは確かです。「だから今の社会では、こうすべき」という一種の成功則が、同性の優秀な成功者から振りかざされると、多くの一般女性はそれにうなずかざるを得なくもなります。そして、その通りに生きようと堅苦しい思いをしたり、そうなれない自分を責めることにもなる。

つまり、「良かれと思って差し伸べた手」が、ありがた迷惑になっている。

ましてや、現在では社会の変化は速く激しくなっています。「こうしたら上手く行った」というノウハウが、5年やそこらで通用しなくなることも少なくありません。

だからこそ、時代と社会を限定した中で成り立つ勝ち組女性の成功則よりも、「女性の痛み」を起点に論を進めるべきと、私は考えています。

一流女性識者たちが宣う「早婚・早期出産」のススメ

さて、前置きが長くなりました。

少子化がようやく政治の重要課題となるなか、2004(平成16)年に『オニババ化する女性たち』(光文社新書)という本が発売され話題を呼びます。著者は疫学が専門の三砂ちづる・津田塾大学教授で、この「オニババ」とは「社会の中で適切な役割を与えられない独身の更年期女性」を指しています。

三砂ちづる『オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す』(光文社新書)撮影=プレジデントオンライン編集部

現代は、女性の身体に備わっている次の世代を準備する仕組みが抑えられ、使われないことが多いため、性と生殖に関わるエネルギーが行き場を失っており、その弊害があちこちに出て、女性が総オニババ化しがちだというのです。20年足らず前にこんな趣旨の本が上梓できたことに、まず驚きを禁じ得ないでしょう。性への発言規範が弱かった当時とて、男性作者であれば、こんな内容の本は出せなかったと思います。

解決策として、三砂さんは「早婚のすすめ」を唱えています。「とにかく早く結婚したほうがいい、あるいは、結婚しなくても女性は早く子どもを産んだほうが、いいと思っています」

それは女性の身体にとってもよいことだが、仕事を考えたとき、「そのほうが理想に近い」とも言います。

20歳で子どもを産むとすると、45歳になったら、子は成人して手を離れている。45歳というその盛りの年齢に「仕事のことだけ考えて思いきり働けるというのは、近代産業社会にとっても、非常に貢献できる」からだ。……これが三砂さんの言わんとするところ。

この話、おそらく、分かりやすいように極端に書いているのかもしれませんが、違和感が募るところです。まず第一に、20歳で子供を産むということは、大学も出られないでしょう。パートナー選びは10代のまだ右も左もわからない時にせねばなりません。

現代であれば、大卒後、仕事を覚えながら、志向なども定まっていく中で、人生の伴侶を見つけるのが、普通でしょう。そうして、30代で子供を産むというライフコースであったとしても、育児や家事は、夫や社会と共働し、短時間勤務やリモートワークを交えて働き続ければ、キャリアは充実できるはずです。何も子どもを早く産むことだけが、正解ではないでしょう。

実際、三砂さんは自身の主張に対し、後に「30代後半の独身女性から大変な反発があった」(『AERA』2007年6月4日号)と述べています。それはそうでしょう。彼女の論では、行き遅れた女性たちは、もうどうやっても救われなくなってしまうのですから。