コミュニティーを“手なずける”加害者

リアルで行われる性的グルーミングに関する研究によると、「性的グルーミング」には、4つの対象と、5つのプロセスがあるとされています(※2)。4つの対象とは、組織/コミュニティー、家族、自分、子どもです。以下、Winters et al.,(2021)の論文を参照しながら説明をします。

性的搾取を行う加害者は、子どもたちにアクセスしやすい職業、例えば学校の教師、習い事の先生、ベビーシッターなどの仕事やボランティアに就き、「組織やコミュニティー」の信頼を得て、尊敬されるようなポジションになり、地域社会をグルーミング(手なずけ)します。また、子どもたちに接しやすくなる、組織の制度を利用したりします。そして、「家族」と親しくなり、家族の信頼も得ていきます。そうすることで、子どもに接しやすくなり、子どもは性的な被害を家族に話しにくくなります。

加害者は、「自分自身」に対しても性的グルーミングの手法を使い、自分の行動を正当化していきます。いわく、「これは暴力ではない、愛情だ」「性的な体験はいつかするから、少し早めに教えてあげただけだ」といったようにです。そうして、加害者は、「子どもたち」に性的グルーミングを行っていきます。

ターゲットを探し、隔離し、信頼関係を築く

また、Winters et al.,(2021)は、性的グルーミングに5つのプロセスがあることにも言及しています。第一段階として、自分が加害をできそうな子どもを探します。第二段階として、子どもに近づいて、他の人から隔離しようとします。例えば、キャンプに誘ったり、習い事の個人指導をしたりです。あるいは、物理的にではなく、「自分だけがあなたを理解できる」「周りの人はあなたにひどいことをしている」などと伝えて、感情的に他の人から孤立させていく場合もあります。

第三段階として、子どもとの信頼関係、愛情関係を築いていきます。第四段階として、性的な話をしたり、性的な接触、あるいは一見性的に見えない身体接触(マッサージやくすぐりあい、膝に乗せるなど)をして、性的な行為に対する子どもたちの感覚を鈍らせていきます。その後、性的加害をし、第五段階として、子どもたちが性的行為を他の人に言えないように、加害行為を継続できるように、子どもに優しくすること、つまり性的グルーミングを継続していきます。

なお、加害行為をする人は、自分自身が性的な動機があることに、性的行為の直前まで気が付いていないこともあるといいます。はじめから性的な動機をもって子どもに近づく人もいますが、純粋に子どもの相談に乗り、子どもの身近な存在になり、距離が近くなって、そこで初めて自分の性的な動機に気が付く場合もあるということです。しかし、通常は子どもと距離が近くなっても、子どもに対して性的な感情を抱くことはないので、それは自分の行動を正当化して(自分に対する性的グルーミング)、動機にふたをしていたのだろうか、と疑問に思います。このあたりは、加害者の臨床を行う先生方にうかがってみたいところです。

※2 Winters, G. M., Kaylor, L. E., & Jeglic, E. L.(2021). Toward a universal definition of child sexual grooming. Deviant Behavior. Advance online publication.

写真=iStock.com/SeventyFour
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