信じたい気持ちと、怒りと、絶望とのあいだで、揺れ動く時間を過ごすこともあります。「知らないままだったら良かった」「自分を被害者だと思ってほしくない」「これが暴力だったと思えない」そんな気持ちになることもあります。

子どもたちが、その苦しさを一人で抱えるのではなく、適切な支援につながり、サポートを受けられることを願います。そのためにも、社会が、組織が安全であること、暴力を許さないという姿勢が明確に示されることが重要となります。

男性が被害を認識することの難しさ

2点目として、現在話題になっている出来事には、被害を受けた人々が男児だったという特徴があります。

男性と女性で、望まない性的行為がもたらす心身への反応が異なるわけではありません。しかし、今の社会の中で、女性ももちろんですが、男性が「自分は性暴力の被害を受けた」と認識すること、述べることは、とても難しいことです。

社会には、男性の性暴力に対する、誤った認識があるといわれます。学術的には「Rape myth(レイプ神話)」と呼ばれるものです。これらには、例えば「男性は性暴力に遭わない」「男性は被害に遭ったとしても抵抗できるはずだ」「男性は女性よりも性暴力被害の影響を受けにくい」などがあります(※3)

しかし、実際には、内閣府が16歳から24歳を対象に行った調査(2022)では、性交を伴う性暴力被害に遭ったと回答した男性は2.1%で、身体接触を伴う性暴力被害に遭ったと回答した男性は5.1%でした。

オンラインの調査ですので、正確な疫学的数字ではありませんが、男性が被害に遭うことは、珍しいことではありません。特に子どもの場合は、男性も被害に遭いやすい傾向があります。もちろん、男性も抵抗は困難ですし、その後の影響は深刻です。ただし、上述のような誤った認識が広がっている社会では、自分の身に起きたことを「性暴力」だと認識することには困難が伴います。

認識できなければ、それを誰かに言うことも難しくなります。結果的に、「たいしたことない」「こんなのよくあることだ」「自分だって望んでいた」「こんなので騒ぐなんておかしい」と自分に言い聞かせ、やり過ごす場合がよく見られます。そして社会も、性暴力被害の被害性を軽視する場合があります。

子どもを守る法律の新設

しかし、セクシュアリティーやジェンダーにかかわらず、その人の意思や感情をないがしろにした性的な行為は、人を深刻に傷つける暴力です。特に子どもは、まだ発達途上でもあるため、心や身体に大きな影響が及びます。

現在、国会に、性犯罪に関する刑法および刑事訴訟法の改正案、および新設される罪の案が挙がっています。その中には、子どもたちを保護する改正も入っています。いわゆる性交同意年齢の引き上げ、未成年の時の被害の公訴時効の延長、性的面会要求罪などです。

※3 Chapleau, K.M., Oswald, D.L., Russell, B.L., 2008, Male Rape Myths -The Role of Gender, Violence, and Sexism, Journal of Interpersonal Violence.