これは、企業のリスクマネジメントやガバナンス意識の表れであり、経験の差であり、スポンサーとしての力量の表れでもあるのだろう。BBCという「黒船」によって火のついたジャニーズ性加害疑惑は、期せずして、芸能やマスコミ以外にも日本社会のさまざまな場所に居座る「まずいことには沈黙することでやり過ごす」性質を炙り出している。

とうとう開いた史上最大の「パンドラの箱」

前回の記事で、故ジャニー喜多川氏の性加害疑惑報道に踏み切った英国BBCと日本外国特派員協会(FCCJ)の会見が示したのは、大きな社会的影響力を持った男性が長年行っていたとされる少年への性加害という深刻な疑惑に対する海外と日本の価値観の温度差であり、日本のメディアや日本社会の沈黙に向けた苛立ちや困惑であると書いた。

「なぜ、事務所もマスコミもそのことを話したがらないのか」
「何を恐れ、隠しているのか」
「なぜ、被害者たちも周囲も声を上げようとしないのか」
「おかしいとは思わないのか?」

「まとも」と自他共に認めるであろう大人たちが、ジャニー氏と(週刊文春の取材によれば延べ数百人を決して下ることがないであろう)元少年たちの間の加害被害に無知、または黙認するまま、ブラックボックスのようなタレント工房から次々と生まれてくるうら若い少年タレントたちを無邪気に褒めそやし、「推しカルチャー」に沸き、番組や広告に起用して大きな利益を上げ、平然と事務所に循環させる社会。これには、何か文化構造的な思考停止、硬直が起きているのではないか。

もしかすると日本のメディア史上最大の悪質なスキャンダルとなる「ジャニーズ性加害問題」というパンドラの箱、その蓋が開けられたのである。

ジュリー社長はどこまで認めていけるのか

幼い頃から優秀で、いずれ事務所の代表となることを期待されて芸能・マスコミ業界の中で育った、藤島ジュリー景子氏。インターナショナルスクールで学び、海外留学もするなど、掛け値なしの才女である。

海外センスを備えた女性社長はBBCの報道が明るみに出たとき、やってくる「外圧」が、イメージ最優先のタレントマネジメント業にもたらしたものの意味を、他の誰よりも痛いほど理解していたに違いない。これまでファミリービジネスとして重大なリスクを核の部分に抱えながらも、マスコミ産業で異例なほどの成功を見せ、各方面に暗黙の了解を強いてきた、日本最大の男性アイドル事務所。そのジャニーズ事務所を率いる彼女は、稀代のアイドルメーカーとしてアンタッチャブルなレジェンド扱いされた叔父の圧倒的にアウトな性犯罪行為疑惑を、経営のハンドルを握る社長として、肉親として、女性として、どこまで公に認めていくことができるだろう。

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