「傷つけられた! 責任を取れ!」

謝罪するときに最も注意しなければならないのは、相手に主従関係を強いられ、一方的に要求を飲まざるを得ない状況に追い込まれてしまうことです。

相手に不快な思いをさせたのなら、それについては謝らなければなりません。しかしそれはあくまで心情面での話です。たとえこちらに非があっても、法外な金を要求していい理由にはなりません。あくまで正常な範囲で、こちらの要望も伝えながら適正なリカバリーの方法を探るべきです。相手の怒りの感情には謝意で、実害に対してはエビデンスでと、切り分けて対応していく必要があります。

電話やメールで脅迫されるだけでなく、怒った相手が実際に会社に乗り込んできたこともあります。

ある日会社に、1本のクレーム電話がかかってきました。「俺はオダカってもんだ!」と名乗るその男は、「お前の会社が出した本のせいで傷つけられた! 責任を取れ!」と訴えてきました。

彩図社では、2010年に『毒のいきもの』という世界の猛毒生物をイラストとユーモアを交えた文章で紹介する本を出しました。その中に「まるでキャバ嬢みたいな生態だ」と解説している部分があるのですが、どうやらオダカはその表現にむかついたようです。

「もう電車に乗って会社に向かっている」

「あのな、俺の女はキャバ嬢なんだよ。俺の女、馬鹿にしてんのかコラ。これって職業差別だよな?」と言いがかりをつけてきました。

正直「この人は何を言ってるんだろう」と思いましたが、無視するわけにもいきません。私は「そんな意図は全くありません」と丁寧に説明をしました。しかしオダカの怒りは収まりません。「納得いかねぇよ! 今から会社に行くから待ってろコラ!」と声を荒らげます。

写真=iStock.com/Andranik Hakobyan
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「今どこにいるんですか?」と聞くと、「もう電車に乗って会社に向かっている」と言います。音声に耳を澄ますと、たしかに電車のレール音やアナウンス音が聞こえてくる。「あ、これは本当に来るな」と思いました。「あと20~30分で着く」ということだったので、私は一旦電話を切って対策を練ることにしました。

こんなことで実際に会社に乗り込んでくるのは、ある意味クレイジーです。「話が通じない相手かもしれない」と覚悟しました。さすがにチャカは持ってこないだろうけど、ナイフで刺されたり、ガソリンをまいて火をつけられたりする可能性はある。そこでほかの社員には「男がきたら俺が対応するから、何かあったら逃げて警察を呼ぶなりしてくれ」と頼み、念のため非常階段のほうに避難させました。