観客の行動が読めないことがいちばん心配だった

「ファイターズさんがやりたいことが、もう盛りだくさんにあったんです。法的な制約はもちろんですが、そもそもスペースが限られている。そこに、いろいろな機能を入れ込まないといけない。最初は、水着じゃない前提でしたから、男女の分け方に悩んだり、裸だったらどうするのみたいな議論もありました。途中で足湯にする案も出ましたけど、インパクトがないからとすぐボツになりましたね。

もともとの建物の設計では、外壁はガラスに覆われていて、全部が屋内の空間だったんです。それをファイターズさんが、一部のガラスを取っ払って、半屋外の吹き抜け空間にすることを決断された。そこを水着で試合を楽しめるエリアにすることで、最終的に概要がまとまりました。デザイン設計に入ったのは、それからですね」

その実施設計でも、球場の温浴施設ならではの難しさがあったと田村さんはいう。

「球場ですので、温浴施設のエキスパートを連れてきて、図面を見せればできるというものではないんです。いちばん心配なのは、お客さまの行動が読めないこと。普通のお客さまを想定した検証は十分に尽くしていますが、やはり考えだすと、こういうことする人いるよねって、リスク要因が浮かんでくる。まさかの行為に対しても安全性を担保しなきゃいけないので、エンターテイメント性を担保する部分との両立が難しかったですね」

写真提供=H.N.F.
温浴施設の「tower 11 onsen&sauna」。温泉プールにつかり、水着姿で観戦できる

予期せぬ「白いレースカーテン」の失敗

温浴施設と同じTOWER 11にあるホテル「tower 11 hotel」も、客室から試合が見られるホテルとしては日本初。客室のバルコニーからフィールドが一望できるほか、フィールドに面していない側の客室ゲストには、ホテルの屋上に専用の観戦エリアが設けられている。廊下の床にホームベースをデザインするなど、館内には野球にちなんだ意匠が満載。だが、日本初の観戦ホテルだけに、予期せぬ失敗もあったと田村さんはいう。

「客室に白いレースのカーテンを使ったんですけれど、そこに外野フライが重なると、フィールドからボールが一瞬見えなくなっちゃう。すぐに替えましたけど、誰も気付かないんですよ、最初は。今考えたら、そりゃそうだよねなんですけど。悔しいけれど、こういうものって、ひとつずつトライ&エラーでノウハウを蓄積していくしかないんですね」

日本初の試みは、まだまだある。実は、エスコンフィールドでは、試合が行われる日は、小学校6年生までの子どもたちは入場無料で、立ち見で試合を楽しむことができる。また、球場内のミュージアムには社会問題をテーマにしたアートも用意される。

「子どもたちや次世代のために、価値や機会を提供したい。少しでも子どもたちにプラスになるような貢献をしたいということが、Fビレッジが大事にしているコンセプトのひとつです。それで、屋内外のあそび場など子ども向けの施設を配置しましたし、幼保一体の認定こども園も誘致しました」

撮影=永禮賢