球場のすぐそばに「農業学習施設」を作った理由
「クボタさんがつくられる農業学習施設でも、農業を次世代に伝えることに重点を置かれていて、来場者を楽しませるという要素を盛り込みながら、次世代への価値貢献を大事にした施設になっています」(小川さん)
その農業学習施設を担当するクボタの野上哲也さんは、Fビレッジへの参加はタイミングがよかったという。
「2020年の年末ごろにFビレッジへの参加を打診されました。ちょうど2021年からの中期経営計画のなかで、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視するクボタ独自のESG経営に、さらにステークホルダーへの視点を加え、あらゆるステークホルダーに、クボタの事業への“共感”と“参画”を通じて社会課題の解決に貢献していくという方針が出されたところでした。
ただ、今までのクボタには、一般の方々に自社のことを知っていただくような施設がまったくありません。それで、どういう施設にしていくのか、クボタとして何を発信できるのかを考えた時に、必然的に“未来”というキーワードが浮かんできました。
北海道は農業の大地ですので、自分で収穫した野菜を食べるといった観光農園はあらゆるところにあります。農業体験ができる施設もいろいろとありますので、それらとは差別化を図りたい。それで“未来”というひとつのキーワードを据えて、議論を重ねました」
スマート農業ではなく、食糧問題を考えるものを
新しい施設のコンセプトづくりには、乃村工藝社から柳原朋子さんが参加した。
「これまでのお付き合いしたクライアントさんのなかでは、圧倒的に合宿が多いクライアントさんなんです(笑)。いきなり丸2日間の終日会議から始まって、何回も合宿をしました。やはり最初は、クボタさんがおやりになりたいことがまだ言語化されていませんでしたので、お話をうかがいながら、新しい施設でなにを目指すのか、イメージをすり合わせていきました。
そうした議論を重ねるなかで、“未来”というキーワードから発想が広がっていきました。未来の農業というと、スマートでカッコいい農業を思い浮かべがちですけれど、世界的な人口増加や経済発展による食糧不足、農業人口の減少、地球温暖化などの現実に目を向けると、日本の食と農を最適化する農業のあり方こそが未来の農業ではないかと。
そして、これは農家さんだけの問題ではない。“食と農の未来を志向する仲間づくり”を新しい施設として目指そうというところに着地していきました。来場者に食への感謝や興味が芽生え、数年後には、食と農の未来の担い手となってもらいたい、そんなイメージです」(柳原さん)