「日本の農業保護は少ない」という珍説
「日本の農業保護は少ない」という東京大学農学部教授の珍説がある。こんなものは誰も信じないと思っていたのに、農業経済学者の間では広く引用され信じられているのにあぜんとした。
この教授は、日本が世界10位の農業生産額を達成していることを評価している。しかし、なぜ食料自給率38%の国が、フランス、カナダ、オーストラリアなど自給率が100%を超える大農業国を凌駕する生産額を実現する(実にカナダ、オーストラリアの倍以上)ことが可能なのか、考えたことがあるのだろうか。
日本の農産物価格は高い関税で国際価格の何倍もしている。その高い価格で農業生産を評価する(生産額は生産量×価格)と、生産額が高くなるのは当然だ。つまり、日本の農業生産額が異常に高いのは、消費者が高い価格を払って農業を保護している証しなのだ。
報道機関がコメントを求めるのは、このような大学教授たちである。
日本の農業保護は極めて高い
上記の教授は、農業予算(納税者負担)だけを比較して日本の農業保護は少ない、EUの農業保護は農家所得と同じくらいある、と主張する。しかし、これは日本の農業保護のほとんどが関税で守られた高い価格(消費者負担)であることを無視している。
OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標がある。これは、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である。
PSE(Producer Support Estimate)=財政負担+内外価格差×生産量
農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2021年時点でアメリカ10.6%、EU17.6%に対し、日本は37.5%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。日本の農業保護が低いというなら、世界中の農業経済学者に笑われるだけだ。