団地化、コンビニ化、スマホ化という社会背景

【宮台】90年代後半、酒鬼薔薇事件のような凶悪な単独少年犯罪が増えます。裏どころか表にさえ紐付かない少年が生まれ始めたからです。60~70年代の「団地化」で地域が空洞化したのに続き、80~90年代の「コンビニ化」で家族が空洞化したのが背景です。これが第2段階です。ちなみに警察用語では「少年」は男女を含むけど、実際大半が男性です。対人スキルが女性より乏しいからです。ゲノム的要因と文化的要因があります。

さらに2000年代以降の「スマホ化」で、KYを恐れてキャラを演じる、当人が友達と称しても知り合い以上ではない、友達がいない若者だらけになります。どこにも紐付かない若者が少数派どころか大多数になり、女性にも珍しくなくなりました。それが普通の男女学生が闇バイトに気軽に応募する背景です。受け子と掛け子は犯罪の全体像を知らないから罪悪感が薄いのは事実ですが、相談できる友達がいれば止めてもらえます。

シノギもあります。92年の暴対法で、組員がビジネスを偽装したシノギを始めます。ところが2006年から全国に拡がる暴力団排除条例で、ビジネスを偽装するか否かにかかわらず組員への支払いが禁じられ、糧を得られなくなります。2点でまずい。第1は、生活権の侵害。実際、国会を通らないので各地の条例になった。第2に、一般人の弱みを握って使い始める。2010年以降話題になった、半グレ集団を使うのが最初です。

「検挙率99.3%」でも強盗はなくならない

【宮台】やがて半グレではない市民を犯罪の実行部隊として使い始めます。広域詐欺とそこから派生した広域強盗です。歴史を振り返ると、釈尊の「ソレありてコレあり、ソレなくしてコレなし」の言葉通り、組員を社会からより遠くへと切り離す40年の歴史と、地域から、家族から、やがて友達からも切り離された市民の感情的劣化が、広域詐欺や広域強盗の2つの背景です。もともと問題を指摘してきた僕には不思議さはありません。

【塩田】警視庁が昨年1年間に特殊詐欺で検挙した受け子と掛け子、620人に取り調べをしたところ、約半数にツイッター上での闇バイトの検索歴がありました。宮台さんが言うように、詐欺の現場では素人がリクルートされて駒として使われる実態が広がっています。広域強盗も同様で、私の取材でも実行犯が一般人にスライドしていることが明らかになりました。

撮影=門間新弥
TBS調査報道ユニットの塩田アダムさん

検察庁が公表している「令和3年の刑法犯に関する統計資料」によると、強盗事件の検挙率は99.3%で、実行犯はほぼ確実に捕まるというのが統計的な事実です。それでも多くの若者が凶悪犯罪の実行犯としてリクルートされていく。その理由を真剣に考える必要があると思います。