新型コロナワクチン後に自然退縮した症例
症例報告では、一般書やインターネットによくある「がんが消えた」体験談とは違って、がんの進行度や診断の根拠が医学的に詳しく述べられています。細菌感染については、清潔な状況で手術が行われ、抗菌薬が使用されるようになり、がん患者さんがひどい感染症にかかることが少なくなったせいか、新しい文献では自然退縮との関連はあまり指摘されていないようです。
大変興味深い症例としては、「新型コロナワクチン接種後に転移性唾液腺がんが自然退縮した」という報告があります(※3)。その患者さんはモデルナ社製の2回目のワクチン接種を受け、発熱や倦怠感といった激しい副反応が出ました。その後、予定されていたがん治療の直前に受けたCT検査で肺の転移巣が縮小していたことがわかり、治療は中止されたそうです。その後のフォローアップでも、治療をしていないにもかかわらず転移巣は縮小を続け、がん組織には免疫細胞が多く観察されました。著者らはワクチンによって刺激された免疫系ががん細胞を攻撃したという仮説を提示しています。
ただし、これは一つの症例報告に過ぎず、ワクチンでがんが治ったと結論づけるのは誤りです。新型コロナワクチンは多くのがん患者さんが接種しましたが、ほとんどは自然退縮していません。でも感染症やワクチン接種後に高熱で苦しい思いをした見返りにがんが治るかもしれないというのは、希望のある話です。
※3 Spontaneous tumor regression following COVID-19 vaccination
がんに勝てない「免疫力を高める」代替医療
がんの自然退縮のメカニズムは複雑ですが、少なくともその一部に免疫が関係しているのは確かです(※4)。簡単に言えば、感染やワクチンなどのきっかけで活性化した免疫系が、病原体だけではなくがん細胞をも認識し、対処するようになるのでしょう。この仮説に基づけば、「コーリーの毒」は、がん細胞を攻撃する免疫系を刺激できたときに効果を発揮したと考えられます。
コーリー医師は、免疫療法の先駆者として知られているものの、残念ながら初期の免疫療法は発展しませんでした。私たち人間の体に備わった免疫が、がんを退縮させる可能性は確かにあります。代替療法を行う人たち、ビジネスにしている人たちが「免疫アップ」を売り物にするのは、そのせいでしょう。
でも、やみくもに免疫系を刺激するだけでは、がんを退縮させることはできなかったのです。まして、最近はやっているような「免疫力」を高めると称する代替医療を行ったり、体を温めたり、玄米を食べたりするだけでは、がん細胞に勝てるほど免疫系を活性化させることはできません。