不安定な雇用形態が独身男性の幸福度を低下させる

これまでの結果から明らかなとおり、独身男性の幸福度は最も低くなっています。これにはさまざまな原因が考えられますが、独身男性の不安定な雇用形態が大きな原因の一つとして考えられます。

この点は結婚相手を探す行動を理論化したメイトサーチ・モデルを使って説明していきたいと思います。このモデルは、労働者が仕事を探す際の行動を理論化したジョブサーチ理論を結婚相手探しに応用したものです。

メイトサーチ・モデルでは、結婚市場という出会いの場が存在し、ある一定の確率で潜在的な結婚相手と出会い、結婚するかどうかを決めていくという構図を考えています。このモデルでは、潜在的な結婚相手が望ましいと思うスペックを持っている人ほど良い出会いに恵まれ、結婚も早くなると想定しています。

男性の場合、この望ましいスペックとは、ズバリお金です。

高い所得や安定した雇用形態が結婚市場で高く評価されることになります。この結果、所得が相対的に高く、雇用が安定的な正規雇用者ほど結婚しやすく、逆に所得や雇用が不安定な非正規労働者ほど結婚しにくくなるわけです。

中京大学の松田茂樹教授の分析によれば、既婚男性の場合、88.1%が正規雇用者ですが、独身男性の場合、62.7%が正規雇用者です(*3)。また、独身男性では非正規雇用者が17.9%、自営等が9.1%、無職が10.3%となっており、不安定な雇用形態の割合が多くなっています。

失業や低い所得水準は男性の幸福度へのマイナスの影響が大きいため、不安定な雇用形態の比率が相対的に高い独身男性の幸福度が低くなると考えられます。

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結婚以前の段階からハンディキャップとなる

ちなみに、非正規雇用という働き方では、結婚以前の段階からハンディキャップがあると指摘する研究があります。神戸大学の佐々木昇一研究員の分析によれば、非正規雇用で働く場合、相対的に所得水準が低く、これが現在恋人のいる確率を低下させることがわかっています(*4)。また、非正規雇用で働く場合、結婚意欲も低下する傾向にありました。

性別役割分業意識が依然として残る日本において、男性には「稼ぐ力」が求められます。非正規雇用で働く男性の場合、この力が相対的に弱く、交際や結婚へのハードルになっていると考えられます。

なお、2010~2020年までの直近の動向を見ると、25~34歳の非正規雇用労働者数は、労働力不足を反映して、緩やかに低下しています。しかし、35~44歳の非正規雇用労働者数の低下幅は小さく、45~54歳の非正規雇用労働者数は緩やかに増加しています。

この背景には就職氷河期の影響があると考えられます。学卒時が就職氷河期にあたり、非正規で働かざるを得なかった世代が中年層となり、非正規雇用労働者としてそのまま働いている可能性があります。これが独身割合の上昇および出生数の低下につながっていると予想されます。