警戒されていたが、じつは軍事行動に消極的な人物

――史上初の米朝首脳会談は6月12日、シンガポールで行われました。日米首脳は電話会談を繰り返し、6月7日には、ワシントンで再び直接会談しました。頻繁に連絡を取り合ったのは、トランプが安易に妥協して北朝鮮と関係を改善することを危惧したからですか。

日米が北朝鮮への圧力を主導する。そういう政策を何とかトランプに取ってもらいたかったのです。私は「金正恩が最も恐れているのは、突然トマホークを撃ち込まれて、自分の命、一族の命が失われることだ。武力行使のプレッシャーをかけられるのは、米国だけだ」とトランプに言い続けました。

トランプは、国際社会で、いきなり軍事行使をするタイプだ、と警戒されていると思いますが、実は全く逆なんです。彼は、根がビジネスマンですから、お金がかかることには慎重でした。お金の勘定で外交・安全保障を考えるわけです。例えば、「米韓合同軍事演習には莫大ばくだいなお金がかかっている。もったいない。やめてしまえ」と言うわけです。

2018年6月12日、米朝首脳会談で握手をするトランプ大統領と金正恩委員長(写真=Dan Scavino Jr./PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons

日本海への空母打撃群派遣に反対していた

米軍が2017年、日本海周辺に空母打撃群を派遣した時も、トランプは当初、私に「空母1隻を移動させるのに、いくらかかっているか知っているか? 私は気にくわない。空母は軍港にとどめておいた方がいい」と言っていたのです。

確かに、空母打撃群は、空母1隻に加えて、イージス艦や補給艦など数隻の艦艇と、潜水艦や約70機の航空団などで編成されているので、それらの移動には相当の経費がかかるでしょう。でも、私は「いや、空母をパールハーバーやサンディエゴ、横須賀の港に置いておくだけでは、空母の意味がないでしょう。空母打撃群は、海洋で活動するためにあるのです。大西洋、太平洋、インド洋、アラビア海。アメリカの戦略的な利益に合致する場所にいるべきです。たまたま今はその場所が、日本海だということです」と反論したのです。

そうしたら、トランプは、国家安全保障担当大統領補佐官のハーバート・マクマスターに向かって、「マクマスター、どうなんだよ」と。マクマスターは「安倍さんの言う通りです」と答えていました。それでもトランプは「俺は納得がいかない」とぶつぶつ言っていました。何とかその場は収めてもらいましたが、苦労しました。