「ゴールデンタイムに強制的に聴かせよう!」

3枚目のアルバム『コバルトアワー』の発売を経て、1975年10月にリースされたのが「あの日にかえりたい」というシングルだ。

冴えない売り上げをなんとかしなければならないという思いで、これまでとは異なるプロモーションを試みた。それがテレビ番組とのタイアップだ。

当時、ドラマの主題歌は番組の予算内で制作されており、当然のことながら映像のほうに予算を割くために歌の制作費はわずかなものであった。

そこで僕は、視聴率の高いドラマ班のスタッフに話を持ちかけた。

「ここに、200万円という大金を費やして制作した楽曲がある。これをタダで使わせてやる代わりに、ドラマの始めと終わりにこの曲を流して、クレジットを入れてくれ」

こうしてめでたくTBSのテレビドラマ『家庭の秘密』の主題歌に採用されることになった「あの日にかえりたい」は、本邦初のテレビドラマ・タイアップになった。

写真=iStock.com/mizoula
TBSのテレビドラマ『家庭の秘密』の主題歌に(※写真はイメージです)

「ゴールデンタイムに強制的に聴かせよう!」というこの作戦が功を奏し「あの日にかえりたい」は大ブレーク。荒井由実がこれまでにリリースした3枚のアルバムは、このシングルのヒットに連動して凄まじい勢いで売れ始めた。

過去に発表した作品までもが一挙にヒットするという稀有な例である。

投資分をあっという間に回収し、売り上げはとんでもないことになったのだ。

その後もユーミンは大活躍するけれど、アルファレコード時代に発表された初期の3作品『ひこうき雲』『ミスリム』『コバルトアワー』の仕上がりは格別だ。

日本の音楽史に残る、永遠の傑作ではなかろうか。