持病がある人は積極的にたんぱく質を摂るべき

60歳をすぎると、持病がゼロの人はほとんどいないでしょう。高血圧とか糖尿病、COPD、がんなどいくつか健康問題を抱えている人のほうが多いはずです。こういう状態をマルチモビディティ(多疾患併存)と言います。私たち医師は「マルモ」と呼んでいます。

高齢化が進むとともにマルモの人は増加しており、日本でも高齢者の6割以上がマルモとされています。マルモになると診療科が複数になったり薬剤治療が難しくなったりするなどさまざまな問題が生じるため、近年世界的に医療上の課題となっています。

慢性疾患がある患者さんは全身に弱い炎症反応が起きていますが、マルモになるとさらに炎症が進みます。このため、持病のない人に比べてたんぱく質の消費が高まり、通常より多くのたんぱく質摂取が必要となります。がんなどの悪液質の患者さんならなおさらです。

また慢性腎臓病の患者さんについては、たんぱく質摂取が腎機能の低下を促進させる恐れがあるとして、長らくたんぱく質制限が行われてきました。けれども最近では「低たんぱく食が腎臓病の進行を遅らせる証拠はない」という研究も出ています。一方で、低たんぱく食によるサルコペニアやフレイル発症などのリスクについて関心が集まっています。

このため、低たんぱく食が腎臓病に与えるメリットと、サルコペニアやフレイルを生じるデメリットを天秤にかけたとき、高齢者ではデメリットのほうが大きいと考える専門家が増えつつあります。いまだ結論は得られていませんが、腎臓病患者さんのたんぱく質制限については全体的に緩和方向にあります。

努力しないと必要なたんぱく質を摂取できない

たんぱく質は魚か肉、大豆食品や乳製品から、3食毎食とってください。体重1kgあたり1日1gのたんぱく質が最低でも必要です。体重60kgの人なら1日60gとらないとなりません。これを1食あたりに換算すると20gになります。20gのたんぱく質とは、どの程度だと思いますか?

納豆1パックだとせいぜい7g弱しかたんぱく質は含まれていません。ごはんに納豆だけでは不足してしまいます。そこに鮭を一切れ食べたとしてもプラス15gぐらいのものです。さらに豆腐の味噌汁などをつけて、ようやく20gをクリアできます。結構がんばらないと1日60gには達しないのです(図表2)。

1日にたんぱく質60gをとるためには?(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)