私は、ワクチンは重要な医療技術であり、研究・開発は進めるべきだと考えています。しかし、新しい技術には思いもよらない危険が潜んでいるもの。高い安全性が確認されるまでは、新型コロナワクチンの接種については慎重に行うべきでしょう。政治家や官僚に期待できない以上、私たち国民が自分の生命と健康を守るために、人口動態統計などの公開データを自ら調べ、分析するしかありません。印象や思い込みに左右されず、数字に表れた問題の本質を見抜く目を養いましょう。

【各論2】エビデンスを名乗った厚労省「印象操作」の典型例

2021年10月15日に、厚生労働省から「新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について」というパンフレットが出されました。数字に騙されない力を鍛えるには格好の教材だと、私は考えています。

ここには、「心筋炎・心膜炎が疑われた報告頻度の比較(男性)」という図が掲載されています。心筋炎・心膜炎の100万人当たりの発症数は、「ワクチンを受けた場合」と「新型コロナウイルス感染症にかかった場合」を比べると、ワクチンを受けた場合のほうが、桁違いに少なくなっています。それを見れば、「ワクチンを接種すると、心筋炎・心膜炎になるリスクも減る」という印象を抱くはずですが、実は、この図のデータには重大な誤りがあったのです。

図の右側、新型コロナにかかった場合の心筋炎・心膜炎の発症数を、見比べてください。国内は834人となっていて、海外の450人よりも多くなっています。それを見て、私は「怪しい」と直感しました。日本は、米国などよりも新型コロナによる死亡率が圧倒的に低く、重症化リスクも小さいはずだったからです。「新型コロナによる心筋炎なども、日本は海外より少ないはず」と考え、データを洗い直しました。

その結果、国内の15〜39歳男性で、新型コロナと診断されて「入院した」4798人の患者のうち、心筋炎などになった人が4人いたというデータがあり、そこから「4人÷4798人×100万人=約834人」と計算して得られた数値だったことがわかりました。つまり、タイトルにある「新型コロナウイルス感染症にかかった場合」の発症数ではなかったのです。定義とは違うデータが使われていたことになり、極めて大きな問題だと考えられます。

22年8月に誤った部分を削除

さらに、使用しているデータは、21年5月31日までのもので、新型コロナが流行した21年夏のデータが含まれておらず、不適切だと考えました。そこで、21年9月28日頃までのデータを調べてみると、10〜20代男性の新型コロナの感染者数は約30万人で、そのうち心筋炎などを発症した患者は3人でした。したがって、新型コロナに感染した10〜20代男性のうち、心筋炎などを発症した人数は、「3人÷30万人×100万人=10人」と見るのが正しいでしょう。ただし、感染者数や心筋炎などの発症数はあくまでも目安です。