「親の介護は子どもがするものじゃない」
——ただそこで家を選びたくても、先ほどの話のようにご家族に遠慮されますよね。
【花戸】この診療所で働き始めた2000年頃は、介護される側は昭和一桁、あるいは大正生まれの人、介護する人は団塊世代(1947-49年生まれ)で、大家族が多かった。「家で看ましょう」というのが当たり前の時代でした。それが今、団塊世代が介護される側にまわってきて、介護する側は団塊ジュニア世代(1971-74年生まれ)。僕も同世代ですが、基本的に核家族で育っているので、わざわざ家族の形態を壊してまで介護しようという人は少ないと思います。
ここ永源寺でも老夫婦あるいは独居で生活し、子どもは離れて暮らすパターンが多いです。そのような中で本人やご家族に、「親の介護は子どもがするものじゃない。この地域で僕ら医療・介護の専門職がやるので、任せてください」といつも言っています。
今日も先ほどとは別にそういう説明をした親子がいましたが、50代のお子さんには80代後半の親御さんを預かろうなんて気はさらさらないんです。でもそれでいいんだと思うんです。だから、「今後通えなくなったら訪問診療をしますからね」という説明をしました。するとお子さんから「よろしくお願いします」と。
本来の分岐点よりずっと手前で在宅を諦めている
——そこからみえるのは、子どもは無意味な、過剰な心配はしなくていいということですね。
【花戸】全国的な調査で「在宅での療養を諦めるのはいつですか?」と聞くと、要支援・要介護1くらいの段階で諦める人が3分の1くらいという調査結果があります。それくらいなら通院できる身体機能でしょう。在宅医療を始めるかどうか、本来の分岐点よりずっと手前の状態で「諦めている」ということです。
理由としては家族の不安が多いんですね。最近、物忘れが多くなってきたし、足腰が弱くなってきたし、一人暮らしで心配だから、と。ここでは外来から在宅に移行し、移行後は訪問診療で見続けるという一連の流れがありますから。
——外来中や他の患者さんの訪問診療中に、緊急的な往診を頼まれたらどうするのでしょう。
【花戸】「今すぐ来て!」という患者さんはいないですね。「先生が来るまで待ちます」と言ってくれるので。もちろん「もう息が止まりました」ということであれば外来をストップしてでも僕が行きますし、あとはがん末期の方のお薬の調整であれば、訪問看護師さんに細かい指示を出して行ってもらいます。そして私があとで駆けつけるということもありますね。いずれにしても往診はもちろん行きますよ。顔を見て説明するだけで患者さんにもご家族にも安心してもらえますから。