チャレンジするにもリスクが高すぎる環境

第二の課題は、現在、多くの中小企業はチャレンジのリスクが非常に高い事業環境にあるということです。新しい取り組みをして、もし失敗したら再起不能になってしまう可能性が高いのです。例えば現状では、借り入れがある中小企業のうち約7割が経営者保証を提供しています。この場合、会社が倒産すると返済は経営者個人が負担しなければなりません。

個人保証が残ったままだと会社の倒産がそのまま自己破産につながってしまい、だから前向きな投資やチャレンジをしにくいという調査結果が出ています。そのため中小企業庁では、経営者保証ガイドラインの策定と、周知・普及に向けた取り組み、専門家による支援などを進めてきました。

今後は金融庁などとも連携し、個人保証を取らない信用保証制度を設けるなどの対策も進めていきたいと思っています。

第三の課題は、中小企業は大企業に比べてリソースやノウハウが不足しているという点です。今はGXやDXが求められるなど経営環境が激しく変化していますが、中小企業には変化を乗り切るための人材が不足しており、また経営者の知見も足りていないと指摘されています。

撮影=プレジデントオンライン編集部

「課題解決」ではなく「課題設定」が必要な理由

――本人の力だけで「自己変革」ができるのでしょうか。

難しい状況だとは思いますが、重要なのはやはり経営者自身の気づきです。価格競争に巻き込まれて苦しみ続けるのではなく、今後は自ら得意な分野、稼げる分野を見つけて事業を再構築していくことが大事です。そして従業員がやりがいを感じるような仕事をつくって、結果として賃金が上がっていく、そうした経営を自ら目指していただきたいと考えています。

もちろん、経営者の皆さんは日々悩みながら闘っていることと思います。その中で変革に取り組むきっかけや覚悟が生まれるようにしていくためには、経営者に寄り添って支援する「伴走者」の存在が重要になってきます。

そうした思いから、私は中小企業庁長官に着任後「経営力再構築伴走支援」という仕組みをつくりました。従来の伴走支援は、設備投資したいといった目先の課題に対して補助金制度などを紹介する「課題解決型」でしたが、それでは表面的な解決にしかなりません。大事なのは経営者自身が本質的な課題に気づくこと、そしてその解決や自己変革に向けて自ら行動し、自走していくことです。

ですから、私は「課題設定型」の伴走支援に力を入れています。経営者と向き合って対話と傾聴を重ね、その人自身が「経営に関する自分の本当の悩みは何だろう」「本質的な課題は何だろう」と考えられるように導いていく支援ですね。

対話と傾聴を続けていると、その人自身がふと本質的な課題に気づいて腹落ちする瞬間がやってきます。この深い納得感や当事者意識が、課題解決に向けて行動する力になるのです。実際、気づきを得た経営者がすごい力を発揮するのを、私は何度も目の当たりにしてきました。