当然、妻は息子に小学校受験をさせようとしたが、信雄さんは「金のムダだし、男は高校までは公立で広い世界を見た方がいい」と小学受験に反対した。

「それが間違っているとわかったのは、息子が小学5年生のとき。同期5人の仲間と飲んだんです。そのとき、私以外の全員が、中学受験の話をしていた。妻の狂気と金、子どもの成績のことなど、愚痴と自慢と半々の口調で話している。私が“公立でいいんじゃないの?” と言ったら、宇宙人を見るような目で見られ、“そりゃ、子どもの人生に圧倒的不利だぞ”と言われたんです」

都心の小学校では、2月1日と2日の私立中学校受験日にはクラスの半分以上が欠席すると言われている。私立に行くのは当たり前、行かなければ負け組という意識は根深い。

「そこで知ったのは、公立中学は先生のレベルに個人差がありすぎること、高校受験時の内申点をもらうために子どもが先生に必死でこびるという現実でした。一方で中高一貫校は高校受験がないので、高校3年のカリキュラムを高2までで終わらせ、残りの1年間は受験勉強に打ち込めることも知りました。これは大きな衝撃でした」

家に帰って妻に相談すると「だから公立は問題が多いって言ったでしょ。でも小5の4月から勉強しても手遅れだよ」と言われた。

「でも息子は学校のテストほぼ100点で、オール5に近い。私はまだ間に合うと思いました。難関校に強いとされるサピックスや早稲田アカデミーなど人気の塾に問い合わせると、すでに満員御礼。そこで、日能研の入塾テストを受けさせると、息子は半分しか解けていない。あれは血の気が引くほどショックでした」

信雄さんは、周囲の人の話を聞き、「息子は麻布学園に入れよう」と思ったそう。自由な校風の男子校で、自宅から通学しやすいし、息子も楽勝だろうと思っていた。

「麻布学園の問題を自分でも解いてみると、全く歯が立たなかったんです。高度な読解力と根気がいる。息子には、こういう問題をやすやすと解いてほしいし、そんなレベルが高い子どもたちと6年間を一緒に過ごさせたいと思ったのです」