政府は「益税」を税収したい

なぜ、免税事業者がターゲットにされているかというと、これまで免税事業者だけに認められてきた「益税」を税収するためだ。

免税事業者は消費税の納税義務が免除されている一方で、売上先(買手)の事業者や消費者に消費税を乗せて請求することは認められている。そして、この預かった消費税を、自分の利益にしてもいいルールになっている。これが益税である。

たとえば、課税事業者であれば「預かった消費税1万円-仕入等にかかった消費税7000円」の差額3000円を納税することになるが、免税事業者ではこの3000円を益税として自らの利益にできる。

ところが、インボイス制度に登録すると、自動的に課税事業者となるため、この益税を失うことになる。課税売上高800万円、消費税率10%、原価率50%だとすれば、大雑把に年間40万円の減益になるということだ。

一方、国からすれば、インボイス制度にルールを変更するだけで、効率よく税収を増やすことができるわけだ。

免税事業者のままでは取引を打ち切られる可能性がある

では、インボイス制度に登録せずに、免税事業者のままでいたとしたらどうだろう。後述するように、それが可能な事業者も存在する。しかし、ごく一部であり、特にB to Bの事業者においては免税事業者のままでいると、買手から取引を打ち切られる可能性が高まることになる。

つまり、こういうことだ。

前述のとおり、買手がインボイス制度に登録して仕入税額控除を受けるには、適格請求書が必要になる(例外については後述)。インボイス制度に未登録の事業者が発行する請求書では取引先が仕入税額控除を受けられないため、消費税の負担が増える。

たとえば、課税事業者である工務店が仕入先(外注先)の大工職人に、税込330万円で発注したとしよう。この大工職人が適格請求書発行事業者であれば、工務店が支払った330万円のうち、消費税分の30万円を仕入税額控除できる。

ところが、大工職人が免税事業者だった場合、適格請求書を発行できないため、工務店は仕入税額控除を受けられない。そのため、工務店の税負担は適格請求書発行事業者を仕入先としたときより30万円も増える。30万円利益が減るということだ。