「梅毒に関する正しい知識がないからこそ、増えてしまっている状況も考えられます。このまま増えると数年後に、症状はないものの血清抗体価が下がっていない潜伏梅毒の人が、脳や心臓などの中枢神経系にまで感染が広がり、命にかかわる状況になりえます。そういう人がどんどん増える可能性があり、注意すべき状況です」

梅毒は、2015年ごろまでは男性の同性間で広まり、限られた人の間の感染症だったが、今は違う。感染者の約3分の1は女性なのだ。女性は圧倒的に20代が多く、ほかの年代は少ない。一方で、男性は若い世代と中高年に多い特徴がある。

「女性の感染者に、CSW(コマーシャルセックスワーカー。性的なサービス提供を仕事にしている人)が多く含まれている可能性があると思います。性行為をする年齢層であれば感染の危険があるので、最も若くて10代後半にも感染者がいる可能性はあるでしょう」

感染した妊婦が胎児にうつすケースもある

梅毒は基本的に性交渉で感染する成人の病気だが、梅毒にかかっている妊婦から胎児に感染することがある(母子感染)。胎児が感染すると流産や死産になるなど、先天性梅毒の症状(難聴など)を起こす。

日本では妊婦健診で、妊娠初期に梅毒の抗体検査が実施されている。しかし梅毒の急増に伴い、初期には梅毒抗体が陰性だったのに中期・後期に感染する症例の報告が増えており、妊娠後期の追加検査を検討すべきという意見が出ている。

「母体が梅毒に感染している場合、母体の症状の有無にかかわらず、胎児への感染リスクは非常に高く、母体の梅毒の早期診断・治療が何より重要です。妊娠期梅毒をペニシリンで治療した場合の先天性梅毒の発生率は、早期梅毒では0%である一方、感染時期不明の潜伏梅毒では33%と報告されています」

まず重要なのは感染しないこと・させないこと。そして感染した場合には、しっかり治療を行って治癒させることが肝心だ。正しい知識で自分や近しい人を守りたい。

(文・小久保よしの)

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