予備校漬けにする日本の受験対策との決定的な違い

多少端折った説明となったが、入学自体はそれほど難しくない大学に対し、グランゼコールに入るための訓練と、それを経た上での選抜は非常に厳しいということがお分かりいただけたかと思う。

グランゼコール入学試験では、学校や専攻により試験科目や内容は異なるとはいえ、冒頭で述べたような試験問題が課されることがあり、その対策はプレパでの日々の厳しい訓練のもとで行われる。つまり、フランスでグランゼコールを目指すためには日本のように家庭負担による塾や予備校で受験対策することはない。また、丸暗記の知識などは試験では求められず、プレパに至るまでの学校教育や家庭教育で積み重ねてきた知識や教養も動員しながら試験に臨むこととなる。

また、グランゼコールを目指す学生が高学歴または教員など教育関係職である親のもとに生まれ育ち、幼い頃から多くの教養的知識や高学歴になるために有利な情報に囲まれて育っていれば、そうした知識や親のアドバイス等が入試に有利に働くことはあるだろう。だが、それを各グランゼコールが求める能力に合わせた試験問題に落とし込むことができるような訓練をするプレパという場を、国が高等教育機関として設置しているというところに大きな特徴があると言える。

国内ではエリート主義批判が高まっている

以上述べてきた通り、フランスにはエリート選抜試験があり、エリート養成校が存在している。一方、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動の勃発に表れているように、フランスにおけるエリート主義への批判が近年ますます高まっている。

ジャン゠フランソワ・ブラウンスタン、ベルナール・ファン著・木村高子、広野和美、岩澤雅利訳『グランゼコールの教科書』(プレジデント社)

プレパはエリート主義的な学校であり、プレパの教師は優遇されすぎているとして、プレパをなくそうという動きがあったことがある。また、マクロン政権下において、エリート主義の象徴と目されてきたマクロン自身の母校であるENAが廃校になり、INSPという新しい学校が設立された。その目的は、ENAの卒業生のほとんどが卒業後に就くことができる上級公務員への道を、多様な出自をもつ学生たちに広げていこうというものである。

こうしたエリート選抜制度を変更していこうとする動きや、難関グランゼコールの門戸を社会の幅広い階層に開放していこうとする試みなどがすでに始まっているが、今後もその動きはしばらく続くことであろう。その結果、フランスのエリート主義や選抜制度がどのように変化していくのか、もしくは変化しないのかについて、引き続き着目していきたい。

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