給与水準は従業員一人あたりの「粗利益」によって決まる

給与水準を決めるのは、従業員一人あたりの「粗利益」である。問題は、これが何によって決まるかだ。

これを見るために、年収リストの上位にある企業からいくつかを取り出して、様々な指標を計算すると、図表1のようになる(従業員数が少なくて高年収の企業はホールディング・カンパニーである場合が多く、以下の分析に馴染まない。そこで、ここでは、単体従業員数が500人以上の企業を対象とする。また、金融機関は会計方式が違うので、対象としない)。

企業の付加価値、給与等(2021年3月期) 出所=『どうすれば日本人の賃金は上がるのか

これを見ると、年収が1000万円を超える企業は、つぎの2つのタイプのどちらかであることが分かる。第1は、「従業員一人あたりの売上高(e)が大きい企業」だ。これが大きくなるのは、その企業の全体としての売上高が大きいからだ。つまり、企業が巨大であるからだ。

例えば、不動産業の場合、零細不動産業者では、大規模な物件は扱えない。信用もないし、資金力もないからだ。大規模な取引は、巨大企業でなければできない。卸売業でも同様の事情があるだろう。もちろん、巨大であるだけで、大規模な取引ができるわけではない。それを遂行できる能力のある人がいることが重要だ。

「売上に対する付加価値の比率」がずば抜けて高いキーエンス

ただし、巨大さが必要条件であることは事実だ。総合商社や不動産業の場合に、こうした事情が顕著に表れる。そのため、高給与の企業は、三井、三菱、住友など、旧財閥系の企業であることが多い。

なお、これらの企業の売上高・付加価値比率(f)の値は、表中の他企業に比べると低い。年収が1000万円を超える企業の第2のタイプは、「売上に対する付加価値の比率(f)が高い企業」だ。この比率は、キーエンスがずば抜けて高く、80%を超えている。これは、同社がファブレス(工場のない製造業)だからだ。また、東京エレクトロンや、ファナック、横河電機も高い。

このタイプの企業になるには、企業規模が巨大である必要はない。事実、いま名を挙げた企業の売上高は、トヨタ自動車に比べると、ずっと少ない。トヨタ自動車は、売上高や従業員数でいえば巨大な企業だが、生産性(g)はさほど高いとはいえない。