世界2位の農業大国が「廃業政策」を断行

オランダでEUの基準値が守れない理由は簡単で、他の多くの国々に比べて酪農・畜産が盛んなためだ。九州と同じぐらいの小さな国なのに世界で米国に次ぐ2番目の農産物輸出国。人口1740万人(2020年)に対し、1200万頭のブタと、400万頭の牛と、1億羽の鶏がいて、それらが皆、糞尿をするのだから、窒素やアンモニアが多くなるのは当たり前だ。

そこで政府は、2030年までにそれらの排出を50%削減するという目標を打ち出した。財務省の試算では、現在4~5万軒ある農家のうちの1万1200軒を廃業に、1万7600軒は規模を3分の1から2分の1に縮小しなくてはいけないというから、農家が憤るのも無理はない。前述のファン・デア・プラス議員は、「わが国の農業は崩壊寸前のところに追い込まれている」と激しく警鐘を鳴らしている。

昨今のEUでは、すべての産業活動が、温室効果ガスを出すか、出さないかで、善か悪かに分けられるという傾向が顕著で、オランダ政府もその方針で突っ走っている。ただ、それぞれの国には得意の産業分野があり、ドイツなど製造業の強い国は工場からの排出、オランダは当然、農業からの排出が多い。それを修正しようとすれば、従来の産業構造を根本から変えるほどの覚悟が必要となる。それにもかかわらず、オランダ政府は自国の伝統産業ともいえる酪農や畜産を縮小しようとしている。

何百台ものトラクターが道路を封鎖し…

そこで、それに抗議するために農民が立ち上がったのが前述のデモだ。戦車ならぬトラクターが何百台も連なって、スーパーマーケットや主要道路を封鎖。高速道路に家畜の糞尿が撒かれたりした(デモ隊は飛行場の封鎖も予告したが、これはかろうじて阻止された)。平和に始まったはずのデモは見る見るうちにエスカレートし、一時、警察が威嚇のために発砲するに至り、事態は極度に緊迫。農民ではない反社会的なグループが加わってデモを暴動化させたという情報もある。

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なお、国境を接しているドイツの農民も応援に加わり、暴力にはくみしないながらも連帯の意を示した。国中を何日にもわたって混乱させたデモは、現在、収まっているが、農家と政府の合意はなく、オランダの農業の行方は不透明だ。

現在、槍玉に上がっているのは、実は酪農・畜産だけではない。ドイツでは緑の党の農業大臣が、休耕地を増やし、土地を自然な状態に戻そうとしている(食糧難が迫る現在、何を寝ぼけたことを! と非難され、実施には至っていない)。緑の党によれば、農業は自然を荒らすもののようである。