8人1部屋の学生舎での生活

さて、防大生は学生舎と呼ばれる学生寮で、このパブリック・スクールを地で行くような規則正しく礼儀を重んじる生活を送っている。2000人の学生が現在は4個大隊に分かれて生活している。

國分良成『防衛大学校 知られざる学び舎の実像』(中央公論新社)

学生たちは基本的に8人1部屋であり、寝室と自習室の2つを共同で使う。1学年から4学年まで、そして留学生も一緒で、4学年が部屋長となる。実際のところは、留学生や女子学生などの増加により8人のところが10人になったりしている。その結果、学生同士の距離感が近くなるのはよいが、あまりに密になりすぎると一人一人の学生のわずかなプライバシーの確保もさらに難しくなるし、生活や衛生の環境も悪くなる。それがもう一つの学生舎を建設することになった理由だ。

なお、女子に関して現状では、同じ学生舎の端の部分に居住するように配置している。男女を仕切るのは、敷居ではなく天井の監視カメラである。女子は女子で建物を分けて暮らしたほうがいいのではとの意見も強い。実際、自衛隊の各部隊の多くではそうなっているが、防大の女子学生たちに意見を聞くと、多くは男女一緒がいいと答える。でないと「大隊への帰属意識が弱まる」のは確かだが、「女子だけだと結構きついのです」という率直な意見もある。いずれにせよ、今後第5学生舎が完成したとき、女子の配置については、人数の増加をかんがみて大きく変わることになりそうだ。

朝は午前6時のラッパが鳴るまで起きてはいけない

学生たちの平均的な一日の生活は図表1の通りだが、終日かなり慌ただしいのが現実だ。朝6時に起床ラッパが鳴るまで起きてはいけない。ラッパと同時に5分で寝具の片づけ、そのあとすぐに大隊の隊舎前に駆け足で整列、号令と発声訓練(号令調整)、そして乾布摩擦で目を覚ます。女子はもちろんTシャツを着ている。それが終わるとすぐに隊舎にもどって清掃、上級生が監督しているので、特に1学年は大変だ。最近では上級生も掃除に参加するよう指導されているはずだが、どうだろうか。

防大の1学年は肉体だけでなく精神的にも鍛えられる。高校までののほほんとした生活がいきなり規則だらけの生活に変わるからだ。ただし、入校と同時に新入生一人一人に2学年の世話係がつく。これを「対番制度」と言い、新入生が防大生活に習熟するまで続けられる。

この制度があるがゆえに「上対番」も「下対番」もいることになり、これを繋いでいくと統合幕僚長やら航空幕僚長まで繋がってしまうこともある。年代を超えた「対番会」なるやけにタテ長の会も次々と誕生している。退校などで途中で途切れる対番関係もあるが、いろいろ理由をつけて繋ごうとしている話をよく聞く。防大は卒業後もヨコにもタテにもナナメにもいろいろ繋がりができる組織で、これが一生続くある種の強力な相互扶助組織となるのだ。