同じ食品大手の味全食品も台湾企業の傘下だ。もちろん、半導体のTSMC、電子機器のフォックスコン(鴻海科技集団)、化学繊維など複合企業の遠東集団も大陸に広範な傘下企業を持っている。香港企業が深圳しんせんで幅広く活躍したように、お隣の東莞トンガン市は台湾企業が集まっていた(今はコスト高から内陸部に移転した企業が多い)。

大陸には台湾人の働き手も多い。私が知る中国企業では、台湾の人が職長などの管理職に就いていることが多い。経営者に言わせると「中国の50代以上は、文化大革命期に赤本(『毛沢東語録』)ばかり読んでいたから経営がわからない」らしく、台湾人の優秀なマネジャーが必要とされている。

また中国の若者も、「小皇帝」と言って、一人っ子政策の影響でわがままに育った人が多い。私が中国・大連で会社経営をしていたときに、中国で一番優秀な清華大学の学生を採用したことがある。彼は大して会社に貢献していなかったが、「自分の同級生は会社からクルマを買ってもらって、今は運転手まで付いている。俺もそうしろ」と要求してきたときは、開いた口が塞がらなかった。彼のような「小皇帝」世代が、産業界で活躍して中国経済を引っ張っていくとは思えない。

従って、中国の企業経営には実務を担ってきた台湾の優秀な人材が不可欠だ。台湾の人口約2400万のうち、少なくとも100万以上が大陸の中国資本の会社で働いていると見ていい。

そんな中で台湾有事が起これば、台湾企業と台湾の人たちは一斉に引き揚げることになるだろう。事業継続が困難となり、中国の産業が即死するのは間違いない。

共産党幹部の子弟=太子党出身の習近平国家主席は、経済・経営に疎いので中台関係のリアルを理解していない可能性が高い。中国政府が米中関係の対立を避けたいと思っている節があるのは、叩き上げで出世した共青団(共産主義青年団)出身の李克強首相らが理解しているということだろう。

一方で、アメリカの政治家も中台関係の実情について無知だ。バイデン大統領も、トランプ前大統領も、関税などで米中対立をいたずらに煽っている。だが、21世紀のボーダレス経済では、中国を抜きにしてサプライチェーンは考えられないし、その最重要の部分は台湾(そして日本と韓国)が握っているのだ。

民進党潰しは始まっている

私から見て、習近平主席は返り血を浴びる可能性が高い武力侵攻とは違う方法で、台湾を巻き取ろうとしているように見える。台湾周辺の大規模な軍事演習は、目くらましのフェイントだ。彼が狙っているのは、香港方式だ。

香港で2014年に起きた「雨傘運動」や19年からの民主化デモの鎮圧は、日本や欧米では、中国政府による弾圧と非難された。