私も、香港を政治的に巻き取ったのは露骨だと感じた。しかし現地の香港では受け止め方が違う。香港に住む知り合いの金持ちは「若い連中が騒いだけど、習近平がうまく抑えたおかげで静かになった」とむしろ評価していた。

習近平主席は、返還時に約束された「一国二制度」は守っているつもりだろう。香港国家安全維持法の施行で政治的に巻き取っても、経済や税制は維持している。法人税や個人の所得税などは中国に比べれば安いままの「二制度」状態なのだ。

さて、習近平主席が香港方式で台湾を中国の一部にするなら、欠かせない条件が、国民党の“政権”復活だ。

国民党は、第二次世界大戦後に台湾へ逃げてきた蒋介石たち外省人の政党だから大陸とのつながりが強い。一方、民主進歩党(民進党)は、戦前から台湾にいた本省人の政党で、1986年の結成時から「台湾独立」を綱領に掲げている。従って、現在の蔡英文総統が率いる民進党政権では、対話はおろか香港方式で巻き取ることは難しい。

これに対する習近平主席のやり方は、2021年11月のニュースで明確になっている。中国政府が、台湾の遠東集団に約85億円の罰金と追徴課税を支払えと命じた一件だ。遠東集団の徐旭東(ダグラス・シュー)董事長(会長)が、民進党に政治献金したことへのペナルティと見られている。

徐旭東氏は外省人で、フォックスコンの郭台銘(テリー・ゴウ)董事長と並んで北京と最も通じている経営者だ。だから、台湾の経営者は皆、相当驚いたに違いない。徐旭東氏ほど北京と親密な経営者が巨額のペナルティを課せられるなら、誰も民進党に献金できなくなる。かなりズル賢い民進党潰しだ。

習近平主席は外省人を中心とする国民党が選挙で勝利し、巻き取る策略を対話できる日を心待ちにしているのだ。

台湾人の本音とは

私が台湾で李登輝総統(当時)のアドバイザーを務めていた30年以上前は、本省人と外省人の区別がもっとハッキリしていた。

蒋介石たちが49年に台湾へ逃げてきたとき、彼らは「ちょっとお邪魔します。中国本土を取り返すまで我慢してね」と本省人に説明した。いずれ中国本土に戻るつもりだったのだ。

私が李登輝のいる総統府を訪ねると、壁に中国全土を取り戻したあとの地図が貼ってあった。中華民国(台湾)総統の下に中国各省が統治される組織図も明記されていた。

だから、89年に天安門事件が起きたとき、私はすぐ台湾の関係者に「いま北京に攻め込んだら世界中を味方につけて大陸を取り戻せるぞ!」とハッパをかけた。