台湾を幸せな国にするほうがいい
ところが、外省人たちは「あんな貧乏な国を取ってどうするんですか」と本気にしなかった。彼らが大陸で、大学の同期などの昔の友人に会うと、「これいいね」と服から腕時計からみんな取られてしまうほどだという。人口10億の貧しい国を取るより、台湾を幸せな国にするほうがいい。攻められたら戦うけど、大陸を取り戻す気はないのだ、と私はそのとき理解した。当時の中華人民共和国は世界最貧国の1つであり、あの頃が外省人にとっては過渡期だったのだろう。
李登輝氏の政策で大成長した台湾企業が、大陸に本格進出したのは、08年に就任した馬英九総統の頃だ。彼は国民党で大陸との関係が強かった。彼が総統のときに、中国大陸と「通商」「通航」「通郵」で交流する「三通」が公然と始まったのは大きい。“大三通”によって交通、通信、通商(ビジネス)の規制が大幅に緩和され、TSMCが江蘇省昆山市に工場を建設するなど、台湾企業が大陸に進出するようになる。
大陸から見ると、国民党の総統は話が通じる。中国から多くの観光客が台湾を訪れ、台湾は「いらはい、いらはい」の大盛況だった。
あのときは融和ムードになったが、16年に蔡英文氏が総統に就任してから一転した。彼女は米国寄りで、共産党嫌いの強い姿勢を見せた。さらに香港の民主化デモ鎮圧を見て、台湾の人たちは「明日はわが身」と思うようになった。トランプ米政権以来の米中貿易摩擦もあいまって、台湾の緊張感は日に日に高まってしまった。
台湾問題についての私の考えは、李登輝時代から変わらない。国連で「台湾を国として認めろ」と頑張るから叩かれるので、台湾が国であるかどうかはもう争わない。「あるがままの台湾(Taiwan as such)」を磨いていこうという考えだ。台湾ほどの経済力と技術を持った国が、機能していない国連に頭を下げて入る価値などないのだ。
「一つの中国」を実現したい習近平主席や、アジアに無知なアメリカの政治家に振り回されることなく、「あるがままの台湾」を引き続き追求してもらいたい。台湾企業と中国経済が不可分であるという実態を「台湾有事」に対する「抑止力」として万人に認めさせることが台湾の為政者にとって最重要、と私が考える所以である。