「働けるようになったら障害年金はもらえませんか」
「夫が働くようになったら、障害年金はもらえなくなってしまいませんか?」
「確かにそう不安になる方は多くいます。しかし、精神疾患をお持ちの方が働けるようになったからといって、必ずしも障害年金が停止されてしまうわけではありません。厚生労働省の『国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドライン』では、就労状況に関しては次のように説明されています」
<安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する>
<就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。就労移行支援についても同様とする>
※厚生労働省 国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドラインより一部抜粋
このガイドラインを踏まえ、筆者は次のように述べました。
「障害年金と就労の関係をざっくり言うと、ご主人がフルタイムで働けるようになった場合、障害年金が停止されてしまう可能性があります。一方、短時間就労などで働くのが精いっぱいといった場合は、障害年金が停止されない可能性が高いです。実際に障害年金を受けながら就労されている方は多くいます」
「それを聞いて安心しました。私の希望としては障害年金の2級になってほしいところですが、実際のところどうなのでしょうか?」
「障害年金の何級に該当するかは、医師の作成する診断書によるところが大きいです。もちろん診断書だけではなくその他の書類も考慮されますが、やはり診断書の影響は大きいと言えます。そのため、医師にはご主人の日常生活の状況がしっかりと伝わっている必要があります。すべての場合でそうだとは言いませんが『毎回の問診が数分で終わってしまう』『ご本人が口頭で日常生活の状況をうまく説明できていない』といったことを耳にすることがあります。そのような場合、医師に診断書の記載をお願いしたとしても、ご本人の状況をしっかりと反映していない内容になってしまう可能性もあるからです」
筆者がそこまで説明したところ、妻は困った表情を見せました。
「では一体、何をどのようにすればよいのでしょうか?」
「例えばご主人の日常生活の様子を文書にまとめ、診断書と一緒に医師に渡すといった方法があります。障害年金の精神疾患用の診断書には、その障害で日常生活がどの程度制限されているのかを判定する項目があります。その項目を参考に、ご主人が日常生活でどのくらい困難さを抱えているのかをまとめてみるとよいでしょう。実際にこの場で少しやってみましょうか?」
筆者の提案に妻は同意を示したので、夫の日常生活の状況についていくつか質問をしてみることにしました。
まずは食事について。夫は病気のため食欲があまりなく、自分で食事を作る気力もないそうです。そのため食事は妻が用意したものをとっています。食事の量は成人男性の半分程度。おかゆを茶碗に少量だけ食べるのが精いっぱいの時もあるとのことでした。
次は身辺の生活保持について。入浴は1週間に1回から2回程度、下着の着替えも1週間に2回程度とのことでした。妻から「毎日入浴をするように」「下着は毎日着替えるように」と言われているのですが、どうしてもできません。妻から何度も何度も言われて何とか入浴や着替えをしている状態とのことでした。
そこまで聞き取った筆者は、妻に「今お話いただいたようなことを文書にまとめていけば大丈夫です。その他の評価項目も同様にまとめていきます。(社労士の)私のほうで文書作成や請求をすることもできます」とアドバイスをしました。
先の見通しが立ったようで、やっと妻にも少しだけ笑顔が戻りました。
面談後、妻は夫に障害年金と短時間就労の組み合わせで生活費を確保する方法もあることを伝えました。「フルタイムで働けなくても何とか生活が成り立ちそう」。そのような見通しが立ったとことで、夫も安心感を得たようです。その後、夫は就労移行支援について調べるなど、就労に向けて少しずつ行動をおこすようになりました。