孫社長は「有頂天になっていた」

一部では“神話”というほどにITプラットフォーマーなどの成長は間違いないという強い期待が膨らんだ。その結果、2021年3月期、SBGは前年の赤字から一転して4兆9880億円の純利益を計上した。有望なITスタートアップ企業などに投資する“ビジョン・ファンド”などの利得が急増した。

しかし、いつまでも株価が上昇し続けることはない。2021年11月末、FRBのパウエル議長は物価上昇が一時的との見方が誤っていたことを認めた。それ以降、利上げと量的引き締め(QT)の同時進行懸念が高まり、期待先行で株価が上昇したIT先端銘柄が売られた。

ウクライナ危機の発生後は物価上昇圧力が一段と高まった。FRBは金融引き締めを急がざるを得なくなった。それに加えて、米国では競争激化やコスト増などによってIT先端分野の業績悪化懸念が高まった。SBGが出資してきた企業の株価は大幅に下落し、過去最大の赤字に転落した。巨額赤字に関して孫氏は「大きな利益が出ている時に有頂天になっていた」と反省の弁を述べた。

SBGへの逆風はさらに強まる恐れ

今後、SBGの事業環境は厳しさを増すだろう。世界的に金利は上昇し、株価はさらに調整する恐れが高まっている。最大の要因は、世界経済が“グローバル化”から“脱グローバル化”に転じたことだ。1990年代以降、世界経済はグローバル化した。中国は世界経済の仲間入りを果たし“世界の工場”としての地位を確立した。

自由貿易協定などに関する交渉も進み、国境の敷居は低下した。米国などの企業は生産コストを引き下げることが可能になった。人件費などコストのより低い国で企業は生産体制を強化した。ジャスト・イン・タイムのサプライチェーンが強化され、需要の変化に合わせて迅速に、より価格が高い市場で製品を供給する環境が世界全体で整備された。その結果、世界全体で景気が良くなっても物価は上昇しづらくなった。

しかし、米中対立やコロナ禍、ウクライナ危機などによって世界経済は脱グローバル化している。ロシアがドイツなどに対する天然ガス供給量を減らすなど、国境のハードルが引き上がっている。企業の事業運営コストが増えている。その中で景気が悪くなっても、足許のように物価は下がりづらくなるだろう。労働市場が逼迫し賃金が上昇している米国では、FRBが金融引き締めを強化して需要を抑えなければならなくなっている。