20年以上前から日本のIT化は遅れていた

1990年代の段階ですでにIT化に対して相当、後ろ向きだったことは別の調査からも明らかとなっています。平成10年版通商白書によると、1997年時点におけるホワイトカラー100人あたりのパソコン保有台数は日本は24台しかなく、米国(104台)の5分の1、ドイツ(76台)の3分の1以下と、すでに致命的な差をつけられています。

平成10年、つまり1998年時点で通商白書が日本のIT化の遅れを問題視しているのです。

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利用者層の偏りも当時から大きかったようです。近年、中高年社員と若年層社員との間におけるITスキルの違いがしばしば問題視されていますが、これは今に始まった話ではありません。平成11年版通信白書によると、1998年時点において、米国では中高年も含めてフラットにネット利用者が分散していましたが、日本では20代から30代前半に利用者が集中していました。

この世代だった人は、今、中高年になっているはずですが、当時、ネットに接続していなかった人は、その後も積極的にITを活用しておらず、現段階ではIT難民になっている可能性が高いでしょう。

ムダが多い状態で強行されるIT導入

困ったことに、従来技術とは異なり、ITには組織文化と密接に関係するという特質があります。

IT化を進めると業務が効率化されるので、組織はフラットな方向に変わっていきます。逆に言うと、合理化やフラット化に抵抗感を持つ組織の場合、ITの導入そのものが忌避される傾向が強くなるのです。日本ではせっかくITを導入しても、業務プロセスの見直しが行われず、ムダが多い状態でIT化を強行するケースが後を絶ちません。

日本企業におけるERP(統合基幹業務システム)導入の失敗はその典型例でしょう。社会のIT化が進むにつれて、経営コンサルティングの成果が次々とITシステムに実装されるようになってきました。

ERPは、このような経営学的成果をパッケージ化した商品であり、各業務におけるベストプラクティス(もっとも効率的・効果的な業務の進め方)があらかじめ組み込まれています。導入企業は、ERPのシステムに自社の業務を合わせれば、即座に効率のよい組織が実現できます。

この手法が全世界的に普及したことによって、組織の合理化が進み、意思決定のスピードも格段に速くなったのです。ところが多くの日本企業は一連の戦略的システムの導入を拒み、受け入れた企業でも、従来の業務プロセスを変えずに済むようコストをかけてシステムを改変してしまいました(カスタマイズ)。せっかくITを導入しても、ムダな業務プロセスを温存してしまった結果、組織の生産性が向上しなかったのです。