宇宙飛行士も驚いた登場人物たちの移動方法

米沢の紹介にもあるように、『11人いる!』の舞台は遠未来の宇宙。人類がワープ航法や反重力推進装置を発明して宇宙へ進出してからもかなり時を経ています。人類はいくつもの星系に植民しながら広がり、やがて宇宙人とのファーストコンタクトを経て、テラ(地球連邦と51の植民惑星との総合政府)として知的宇宙人たちからなる星間連盟にも加盟し、さらなる発展を目指しているところです。

『11人いる!』では、テラからの受験生タダの他、サバ、セグル、ロタなどより有力な星系からの受験生らが登場、それぞれの異文化(というか異なる生命・身体構造など)が少しずつ語られていくあたりも、SF的にはとても魅力で、細部の構想、設定がきちんとしていました。

たとえば作中、宇宙空間での船外活動では、宇宙服に付いている推進用具を調整しながら移動しています。発表から40年後の現在、宇宙服は実際にそうなっており、宇宙飛行士の山崎直子は〈まさにまったく同じです。これを想像で描かれたというのはすごいですね〉(対談、『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界』収録)と驚いています。

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「数学的だからこそ美しい宇宙」が描かれている

その一方、受験生の中に女性がいることに男たちが驚く場面があることは、女性の社会進出がまだ一般的ではなかった当時の社会認識を反映していました。

彼ら宇宙大学受験生が最終テストをサバイバルする「外部とのコンタクト不可能な宇宙船(白号)」では、アクシデントから船内で感染症が発生、また恒星に引き寄せられて危険になったために居住区の一部を爆破し、その衝撃を推進力として引力圏から逃れる場面があるのですが、その描写も科学的に計算が行き届いています。

じつは中盤辺りから宇宙船・白号が居住空間を下(恒星向き)にして恒星に引き寄せられているのが気になりながら読んでいたので、そこの爆破という展開になった時、「伏線か!」と嬉しくなりました。

近年、萩尾が白号の軌道計算をきちんと数学的にしていたことも知り、唸ったものです。数学的でありながら、美しい宇宙。いや、数学的だからこそ、美しい宇宙!